選挙結果を巡るあまりの混乱ぶりと、現職大統領の醜態に、世界中の人々が驚き、あきれ、「あの米国が…」とため息をついた。

 大規模な不正があったとして選挙の敗北を認めず、支持者をあおってきたトランプ米大統領が、米下院で弾劾訴追された揚げ句、ついにその座を明け渡す。

 無残な末路である。だが、これをもって「民主主義の勝利」だと評価するのは早すぎる。

 共和党支持者の中には今なお、トランプ氏の主張を真に受け「選挙は盗まれた」と信じ、本当の勝者はトランプ氏だ、と主張し続けている人が多いという。

 バイデン氏が正式に大統領に就任した後も、トランプ氏が自分の影響力を維持するため「選挙はいんちきだった」と言い続けた場合、どういうことが起こるか。

 事実が軽んじられ、理性よりも感情が重視される時代には、虚偽の情報や陰謀論が受け入れられやすくなる。

 バイデン氏の大統領就任後も、陰謀論がまかり通り、新大統領の正統性を疑い続けることになれば、分断と対立は深まる。

 米国の民主主義が受けた傷は深く、融和を呼び掛けるバイデン次期大統領の下でも、傷を癒やすのは容易でない。

 米国の民主主義の復元力を占う上で目が離せないのは、弾劾裁判の行方だ。とりわけ注目したいのは、共和党の出方である。

 共和党は、トランプ氏の影響力にすがる「トランプ党」から今こそ脱皮すべきだ。

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 トランプ氏の支持者らは、大統領選の当選認定手続きを行う上下両院合同会議のさなか、窓を割って連邦議会議事堂に乱入した。

 トランプ氏が「盗まれた選挙を取り返せ」「もっと強くならなくては」と支持者をあおったからである。

 下院の採決では「暴力を扇動」した責任が問われ、10人の共和党議員が造反し、弾劾訴追決議案が可決された。

 有罪か無罪かを判断する弾劾裁判は、新政権が発足する20日以降に、上院で開かれ、出席議員の3分の2の賛成で「有罪」が認定される。そのためには共和党から17人以上の造反が必要だ。

 トランプ氏は大統領選で約7400万票を獲得し、今なお強力な岩盤支持層を持つ。共和党議員がこの状況でどのような判断を下すか。

 米国の民主主義がここで復元力を発揮することができなければ、強権政治がはびこる世界の中で米国の発言力が低下するのは避けられない。

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 英エコノミスト誌が発表している民主主義指数によると、米国は2016年に「完全な民主主義」から「欠陥のある民主主義」に格下げされた。

 米国の政治が新たな状況に対応し切れていないことを示すものだ。

 トランプ氏は、バイデン氏の大統領就任式に参加しない意向だといわれる。異例の対応である。不参加によって新大統領の正統性に疑問符を突き付ける狙いがあるとすれば、トランプ氏の罪は限りなく大きい。