核兵器の開発や保有、使用、核による威嚇を全面違法化する初の条約「核兵器禁止条約」がきょう効力を発する。「核なき世界」の実現へ向けた規範を歓迎したい。

 核兵器がいかに非人道的かは、75年前のヒロシマやナガサキが如実に示している。

 条約の実現には被爆者が長年、国際社会に向けて自らの過酷な体験を語り、条約の必要性を粘り強く訴えてきた経緯がある。被爆者らの運動が果たした役割は大きい。

 ただ、条約が発効してもなお核廃絶への道のりは遠い。

 条約に批准したのは中南米やアフリカ、オセアニアの小国を中心に51カ国・地域にとどまる。米英仏ロ中の核保有五大国は参加せず、条約を順守する義務は負わない。

 唯一の戦争被爆国で、条約に真っ先に署名・批准すべき日本も参加していない。中国や北朝鮮の核軍備に対し、米国の「核の傘」に頼る安全保障上の理由からだ。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計では、昨年1月時点の世界の核弾頭数は計1万3400発。約9割を米ロが保持するとみられる。

 トランプ前米政権は核兵器の近代化を推し進め、ロシアは中・短距離の戦術核を増強しているとみられる。中国は核弾頭数を10年間で倍増させると米国防総省は分析する。北朝鮮も核戦力増強に突き進んでいる。

 肝心の核保有国が条約に参加しなければ実効性は乏しい、と疑問視する声は根強い。このままでは条約が形骸化し、軍拡が進む恐れすらある。

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 日本は、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うと繰り返しているものの残念ながら積極的な役割を果たしていない。

 核保有を米英仏ロ中の5カ国のみに限る核拡散防止条約(NPT)を通じて核軍縮を進めるのが現実的、との立場にこだわり続ける。だが、具体的な成果を上げていない。

 条約が発効された以上、「わが国のアプローチとは異なる」と背を向けたままでは許されない。被爆国としての責任や自覚を持ち、一歩でも二歩でも世界が軍縮へ進むよう具体的な努力をすべきだ。

 米国では、核軍縮に前向きな姿勢を示すバイデン新大統領が就任した。前政権下の計画の見直しを検討しているという。

 日本には、こうした核保有国の変化にも目を向けながら、核を巡る対立が少しでも和らぐよう機運を高めてもらいたい。

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 反核運動に力を注ぐカナダ在住の被爆者サーロー節子さん(89)が語ったように「核兵器の終わりの始まり。本当の闘いはこれから」である。

 長崎大・核兵器廃絶研究センターは、条約が核実験を含む被爆者の援助を柱に据えているとし、日本が被爆国としての経験と知見を提供するよう提言した。

 この機会に日本も条約を批准すべきだ。まずは1年以内に開かれる締約国会議にオブザーバーとして参加してもらいたい。果たすべき役割が見えてくるはずだ。