木村草太の憲法の新手

[木村草太の憲法の新手](145) トランプ氏ツイッター 問題ある投稿 規制不可欠 扇動教訓に在り方模索

2021年2月7日 08:40有料

 トランプ前大統領のツイッターが凍結された。この問題を検討する際の出発点は、契約の自由だ。私的な企業は、嫌な相手との契約を拒否する自由があり、また、「他の顧客に迷惑をかけないこと」といった契約条件を付すこともできる。そうだとすれば、ツイッターアカウント凍結も、契約条件に基づくサービス打ち切りにすぎない。

 ただ、ツイッターやフェイスブックは、個人や団体の重要な情報発信手段となっており、その利用停止は表現行為に重大な影響を与える。また、プライバシーや著作権の侵害、犯罪扇動、リベンジポルノなど、犯罪・不法行為に悪用されることも多い。そうしたプラットフォームの運営を、私人の契約の自由に完全に委ねるのは不適切だ。不当な削除・凍結を抑制しつつ、問題ある投稿を規制する仕組みが不可欠だ。問題は、それを誰がどう作るかにある。

 この点、ドイツには、意見表明の自由は重要な基本権であり、その制約には法律の根拠が必要だという法理がある。この法理は、事業者による削除や凍結にも適用されるという考え方から、2017年には、違法投稿の削除の条件と義務を規定するネットワーク執行法が制定された。また、メルケル首相は1月11日の報道官記者会見で、法律ではなく企業の決定により、トランプ氏のアカウントが凍結されたことは問題だと指摘した。

 もっとも、私企業のサービス停止は、国家の命令・刑罰などによる表現の自由の侵害とは異なり、事業者の判断の自由も尊重する必要がある。そこで、アメリカでは、1996年に通信品位法が制定された。同法230条は、事業者が、(1)利用者の投稿による名誉毀損(きそん)等の権利侵害について、情報発信者としての責任を負わないこと、また、(2)「わいせつ・不潔・過度の暴力性・嫌がらせ」等の投稿に対し、誠意をもって講じた削除・凍結などの措置について、利用者への法的責任を免除されることを定める。

 一見すると、この責任免除規定の下では、事業者が無責任に振る舞うように思える。しかし、セント・ジョーンズ大学のケイト・クロニック准教授は、2018年の論文で、通信品位法230条の下で、事業者は、民主主義の文化や表現の自由への期待を反映し、自主規制の枠組みをより良いものになるよう発展させてきたと言う。

 この論文は、自主規制には不透明性などの問題もあるが、多様なプラットフォームに一律のルールを課す法律は、実効性に疑問がある上に、事業者から、より良い規約や削除の方法を追求する動機を奪ってしまう危険があるとも指摘する。メルケル首相と同様の懸念を共有しつつも、アメリカなりに対処方法を模索してきたと言えよう。

 ただ、トランプ氏の扇動には、自主規制の枠組みが十分に働かなかった。ツイッター社は、今年1月まで、投稿の公共性に鑑みて、アカウント停止はしなかったものの、「不正確な情報である」などの注意書きを強制的に表示していた。しかし、表示は、選挙不正を信じる熱烈な支持者を正しい認識に導けなかった。このことを教訓に、自主規制や法律による規制のより良い在り方を模索していくしかない。(東京都立大教授、憲法学者)

人気連載「憲法の新手」が本になりました!

沖縄タイムスのネットショップからも購入できます。

連載・コラム
記事を検索