[経済再興への道 コロナ禍の挑戦](7) 垣根を越えて

 沖縄土産として人気の「首里石鹸」。運営するコーカスは2020年、コロナ禍の中で新規5店舗を開業した。メイン顧客の観光客が激減する中、県民需要を掘り起こしながら、県外でも期間限定で出店するなど、商品力に磨きをかけている。

好調一転急落

 「2事業で、月商1億円が見えてきた」。2020年1月、コーカスの緒方教介社長は手応えを感じていた。コールセンター事業に加えて、もうひとつの柱として16年に始めた首里石鹸。ネット販売を含む全店舗合計で前年同月比160%超えと、売り上げは絶好調だった。

 同時期、有名ドラッグチェーン店の国際通りからの撤退が緒方社長の耳に入った。「出店のチャンスかもしれない」。元々、国際通りに5~8店舗の「ドミナント出店」を構想していた。24カ所の候補のうち、松尾近くと久茂地に2店舗の出店を決めた。

 だが、4月に入って直後、風向きが一気に変わった。閑散とした街。売り上げも振るわない。4月8日、緒方社長は全店舗休業を決断した。「1人もクビにしない。みんなで生き残るぞ」。全社員に呼び掛け、我慢の1年を覚悟した。試算では1億円超の赤字。4~5月は前年の10%に満たない店舗も多く出た。

カメの子作戦

 緊急事態宣言が明けた6月にイーアス沖縄豊崎内、7月には国際通りで2店、12月はサンエー那覇メインプレイス内と、次々に開業した。

 ただ、全てが順風満帆だったわけではない。実は9月末、国際通りにある5店舗のうち、1店舗の撤退を検討していた。損益分岐点を下回っていたからだ。「ボディーブローのようにコロナが蓄積する」。緒方社長は頭を悩ませていた。

 「カメの子作戦でいくの、どうっすか」。コーカスに出資し、経営も支援するファンド運営会社「SCOM(エスコン)」の上間喜壽氏が提案した。撤退すれば多額の違約金が発生する。家賃だけは支払いながら店を休業し様子見をしては、という提案だ。「目からうろこだった」

 12月からのメインプレイスの開業も控え、求人を打つかどうかの瀬戸際でもあった。「1店舗を休業する代わりに、その人材を新規店舗にも充てられる」。国際通り牧志店の休業を決めた。

 接客と商品説明に慣れた人材を配置できたことで、メインプレイス店は初日のみで100人を超す来場、65万円を超える売り上げが得られた。顧客はこれまでたったの2割だった地元層がほとんどだった。「土産需要だけでなく、日常使いのスキンケアとしての認知度が高まってきた」。緒方社長は確信した。(政経部・川野百合子)

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