[経済再興への道 コロナ禍の挑戦](10) 垣根を越えて

 「県外向けにプライベートブランド(PB)商品を作りませんか」。昨年6月、那覇市の沖縄産業支援センターであった食品メーカー向けの説明会。県外のスーパーや百貨店などへの卸事業を手掛ける沖縄物産企業連合(那覇市)の羽地朝昭社長はこう提案した。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、国や県が昨年4月から5月にかけて出した緊急事態宣言。観光客が激減し、県内メーカーでは菓子類を中心に土産品の大量在庫が発生した。だが、沖縄観光を控える動きが強まった分、県外の小売店では沖縄の食品を買い求める需要が高まり、卸事業が伸びていた。「これを生かさない手はない」。メーカーの窮状を知った羽地社長は卸事業の活用を思い立った。

県外小売が依頼

 提案から8カ月が過ぎ、これまでに4社とPB7商品を開発した。売り上げ実績としては「まだ少ない」が、PB商品を目にした県外小売店が県内メーカーに別の商品開発を依頼して売り上げに結び付いた事例が出ている。

 黒糖菓子を製造する海邦商事(うるま市)は、黒糖とミントを合わせたPB商品の菓子が東京都の食品小売専門店の目に留まり、ミントを使った別の黒糖菓子のOEM(相手先ブランドによる生産)の依頼を受けた。昨年9月から製造を始めたところ、相手先から追加注文が相次ぎ、6カ月で2万5千袋を売り上げた。

 通常取引の7倍の早さで出荷しており、セントローレント真紀社長は「コロナで売り上げが落ちている中、相当助けられている」と感謝する。

安定取引が魅力

 業績はこの1年間10~55%減の間で推移しており、売り上げ回復は喫緊の課題。その中で、小売店のPB商品の製造はメーカーにとって定額で決まった量を取引してもらえる利点がある。通常の商品だと製造分を売り切るため、各小売店に営業をかけなければならないがその労力も省ける。セントローレント社長は「PB商品であれば大手メーカーとの過度な価格競争にさらされることもなく、安心して生産できる」と話す。

 沖縄物産企業連合と黒糖を使った新たなPB3商品の開発も進めている。企業連合の諸喜田圭太課長は「既存商品は時間と共に目新しさが薄れ、売り上げが落ちる傾向がある」と説明する。コロナによる打撃から再び経営を軌道に乗せるためには、消費者の興味をかき立てる新商品の開発が欠かせない戦略だと位置付ける。

 開発後は東京都と大阪府に拠点を置く営業所のスタッフが県外の小売店に売り込みをかける。羽地社長は「仕入れが一番のメーカー支援になる。地域経済のためにも精いっぱい支えたい」と意気込んだ。(政経部・仲田佳史)

=木曜~土曜に掲載します。