[経済再興への道 コロナ禍の挑戦](12) 垣根を越えて

 「従業員の雇用を絶対守ります」。緊急事態宣言中の昨年4月、沖縄物産企業連合の羽地朝昭社長は社員やパートを会議室に集めて宣言した。コロナの感染予防のため全8店舗が臨時休業中。売り上げの大幅な減少を予想して、従業員に雇用への不安が高まるのを抑えるのが狙いだった。

 役員会では「本当に大丈夫なのか」との異論も出た。だが、直近の決算まで5期連続で増収増益となったのを挙げ、「達成は従業員の頑張りのおかげだ」と説得した。従業員の給料満額を維持し、代わりに常勤役員3人は5~7月までの3カ月間、報酬1割減にした。臨時閉店の影響で、昨年3~5月期の売上高は前年同期比25%減。2500万円の経常損失を計上し、7期ぶりの赤字に転じた。

期間限定で出店

 厳しい売り上げが続く中、社員は危機打開へ奮起した。専門誌の調査で国内の主要ショッピングセンターで売上高が最も高い「ラゾーナ川崎プラザ」(神奈川県)から「コロナの影響でテナントに空きが出たため、利用してみないか」と期間限定での出店の打診を受けた。

 しかし、どこの施設もテナントが退去して空きが出ている状況。「出店したら失敗するのでは」。関東の店舗責任者の神野河晃洋リテール事業課長は不安がよぎった。

 だが、思い浮かべたのは、2001年の米国同時多発テロで、観光客が一気にいなくなり、小売店舗も含めて観光関連産業が大打撃を受けた当時の沖縄の様子。コロナで観光客がいなくなった今の沖縄の姿と重ね合わせ「沖縄が厳しいのだから売り上げは県外で確保しなければならない」と決意した。

 ラゾーナのある川崎市や近郊の横浜市鶴見区には県出身者や県系2世・3世が多く住む。沖縄の物産を買い求める需要が見込めるとの判断も出店を後押しした。昨年8月から1月まで運営した店舗の売り上げは目標の1・5倍。売れ筋は、沖縄そばや紅芋タルトなど。砂川太一店長が「人員を多く配置できればもっと売り上げが取れた」と悔やむほどの好調ぶりだった。

巣ごもり需要も

 店舗売り上げは前年並みに戻ってきており、巣ごもり需要で卸売業の売り上げが増加。本年度の売り上げ見込みは昨年3~5月期から12ポイント改善の13%減に抑えられ、再び経常利益が計上できる黒字見通しとなった。

 店舗アルバイトの求人を出すと例年5人程度の応募だが今は100人以上くる。神野河課長はコロナで多くの人が職を失っている状況を目にすると「パートやアルバイトを守らなければならない」と痛感する。コロナの収束が見えない中、社員一丸となって売り上げの回復にまい進する思いを強めている。(政経部・仲田佳史)

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