[経済再興への道 コロナ禍の挑戦](14)

 こんな状況だからこそ、笑いも肉も届けたい-。新たな販路を求めて沖縄県の石垣島から海を渡り、沖縄本島にやってきた美崎牛本店の美崎信二社長。自身が忍者のコスプレで美崎牛の肉の塊を左手に持ち、右手でポーズをとった写真を印刷したど派手な車「スター美崎号」を用意。肉の鮮度を保つ保管先として卸売業の大伸(浦添市)の協力も得た。

 年明けに発動された緊急事態宣言の影響で、コロナ前の売り上げは月に約3千万円だったが、1月の売り上げは前年比の3割までに落ちていた。しかし、「海を渡れば本島に石垣島の25倍の胃袋がある。需要は見込める」と前向きに捉えた。

きいやま商店と

 2月から本島でのデリバリー販売を開始。SNSでは「沖縄本島お得セール宅配。送料は無料…だって私が配達してますから。好評激走中です」とPR。目標販売数は1日50件。初日から、友人の紹介やSNSでのPR効果で目標数を超えた。

 苦境の中でも踏ん張る美崎社長の日々をつづったSNSの投稿にファンがついた。「勝手に広報担当に就任しちゃいます」と美崎社長の投稿をSNSで拡散する人も。

 石垣島で活躍する美崎社長の同級生、きいやま商店のリョーサさんを18日、助っ人に迎え、一緒に配達した。前日に告知しただけだが、リョーサさんのファンから10件近くも予約が入った。リョーサさんは、注文した客の玄関先で、ファンサービスに生演奏をプレゼント。「美崎の行動力はすごい。今やれることを全て試そうという姿勢に、影響を受けた」とコロナでライブ出演が減った自分の境遇と重ねて語った。

スタッフも活力

 美崎牛本店のスタッフも美崎社長の背中を追う。高橋輝さん(25)は「自分たちも負けてられない」と知恵を絞る。「精肉店が作るコロッケってどうだろう」。高橋さんはコロッケの試作に取り掛かった。精肉店のコロッケなので肉の食感を楽しめるようミンチを粗めにするなど工夫を凝らし、試作を重ねて完成した。税込み200円と少々高めだが、客からは「おいしかったからまた来たよ」という温かい声もあった。

 デリバリー販売は目標の50件に達しない日もあるが、現時点で平均35セットを売り上げている。また、「牛チューブ」や美崎社長のSNSで「スター美崎号」の奮闘記録を見て県外配送や県外からの注文も毎日約20件ある。しかし、売り上げは前年比の半分にも満たないのが現状だ。

 美崎社長が目指すのは、世界から選ばれる美崎牛。エンタメのサブスクリプション(定額制)の流行をヒントに、県外や海外の富裕層向けの美崎牛のサブスクも計画中。「コロナに打ち勝つためには、挑戦し続けるしかない」(政経部・又吉朝香)=木曜~土曜に掲載します