差別意識と事実誤認に満ちた論文である。ヘイト本を思わせるような沖縄をおとしめる文章が、根拠も示されず書き連ねられている。

 米ハーバード大学のJ・マーク・ラムザイヤー教授が、辺野古新基地建設について「一般県民は賛成したのに地元エリートと本土の活動家が私欲のために反対している」と分析した論文を発表していたことが分かった。

 論文は、公務員や軍用地主を沖縄内部のエリートと位置付け、自らの給与や地代をつり上げる「ゆすり戦略」のため反対運動に従事すると主張している。

 新基地建設に「一般県民は賛成した」という。だが、投票総数の7割超が「反対」の意思を示した県民投票の結果が民意である。

 普天間飛行場の土地は日本軍が購入した、といった事実関係の誤りも多い。普天間は沖縄戦で宜野湾へ侵攻した米軍が土地を強制接収したものだ。日本軍は関与していない。

 ほかにも「米国は寛大に沖縄を統治したが、それが依存体質を生んだ」とする記述がある。米軍統治下の沖縄では基地の維持が全てに優先され、住民の命や人権が軽んじられた事実は理解していないようだ。

 誰に取材をしたのか、何を参考にしたのか。

 論文では自説を裏付けるために、評価が定着している研究書ではなく、一方的な見方の本からの引用が多く見られる。しかし、参考文献には含めていないものもある。あまりにも恣(し)意(い)的である。

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 ハーバード大といえば、世界的な名門大学だ。その教授が書いた論文となれば、別の論文などに引用される恐れがある。学問としてデマが拡散される懸念が拭えない。

 2020年1月に発表されたこの論文は、現在も大学のウェブサイトに全文掲載されている。教授には指摘に対する見解を明らかにしてもらいたい。大学も掲載した理由を示すべきだ。

 こうした主張は過去にも見られた。

 東京ローカルのテレビ局で17年、東村高江への米軍ヘリパッド建設に反対する人は「日当をもらっている」などとして、関係者を誹(ひ)謗(ぼう)する番組が放送されたことがあった。

 米国側の発言としては10年に、駐沖縄総領事の経験のある米国務省日本部長が「沖縄の人はごまかしとゆすりの名人」と県民を侮辱する発言をしていたことが思い出される。

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 論文でおとしめられたのは沖縄だけではない。被差別部落出身者や在日コリアンに対しても同様の言及をしている。

 日本政府は18年、日本研究への貢献を評価して教授へ旭日中綬章を授与した。論文が発表されたのはその後だが、叙勲がお墨付きを与えてはいないか。

 ネットなどではデマや差別があふれ、県内の若者の中にも「普天間飛行場は何もない場所に造られた」といった誤りを信じる人が少なくない。一つ一つに反証する取り組みが重要だ。