10年前に起きた史上最悪レベルの原発事故は、太平洋と阿武隈山地に抱かれた町の風景を一変させた。それを象徴する光景が、除染ではぎ取った土や落ち葉などが入った黒い袋「フレコンバッグ」の山だった。

 東京電力福島第1原発事故に伴う放射性物質による汚染土を保管するため、国は福島県大熊、双葉両町に中間貯蔵施設を整備した。

 造られたのは原発を囲むように広がる田園地帯で、事故で避難するまで約3千人が暮らしていた場所だ。

 故郷を追われた住民にとって施設建設は、帰還を遠ざける選択にもなる。受け入れを巡っては、地元を二分する議論が沸き起こった。

 双葉町の伊沢史朗町長は昨年12月の講演で「沖縄の基地問題と同じ、危ないものは受け入れたくない。ない方がいいが、復興のため苦渋の判断だ」と語った。

 「中間」と名が付くのは、国が30年以内に福島県外の場所に貯蔵物を運び出すと約束しているからだ。

 廃棄物の総量は東京ドーム11杯分に当たる約1400万立方メートル。来年3月までに全てのフレコンバッグを施設へ運び終える予定という。

 それだけ聞くと、作業は順調に進んでいるように見える。だが昨年、環境省が実施したアンケートで、その後の県外処分について「知らない」と答えた人が8割にも上った。

 社会的コンセンサスを得ることが難しい問題である以前に、地元が危機感を抱くのはむしろ社会の無関心だ。

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 除染土の最終的な行き場同様、懸念されるのは難航する原発廃炉作業である。

 2号機で今年中に行うとしていた溶融核燃料(デブリ)の取り出しは、新型コロナウイルス感染拡大がロボットアームの製造に影響し、来年以降にずれ込むことになった。

 1、2号機ではいまだ使用済み核燃料の取り出しにも着手できず、計画は最大で10年後ろ倒しになっている。

 政府と東電は廃炉目標を2041~51年とするが、思ったように進んでいないのは誰の目にも明らかだ。

 五輪誘致に際し安倍晋三前首相が「アンダーコントロールされている」とアピールした汚染水も増え続けている。

 第1原発の広大な敷地に林立する巨大タンクにためられた放射性物質トリチウムを含む処理水は、22年秋には満杯になるとされる。

 制御下にあるとは、とても言えない状況だ。

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 事故10年を前にした日本世論調査会の調査で、約76%が「脱原発」を志向していることが分かった。90%が再び深刻な事故が起きる可能性があると答えるなど安全性への強い懸念が浮き彫りになった。

 菅義偉首相は昨秋の所信表明演説で「50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」と宣言した。ただ政府の脱炭素化は原子力の活用も含んでいる。

 福島の教訓に向き合い、国民の声に耳を傾けるのなら再生可能エネルギー100%を目指す長期展望こそ示すべきだ。