「新規事業は本流じゃないですから、出世なんか考えない方がいいですよ」。金融機関に勤める小川さんは、経済記者のころからの付き合いだ。新規事業に長く携わり、ベンチャー企業の支援も手掛けている。記者時代はおもしろいネタをたくさん教えてもらっていた。

 2019年春。ぼくが編集局から新規事業の部署に移ったので、「異色の人材がやってきた」と壮行会を開いてくれた。当時は何をやっていいのかも分からなかったので、アドバイスを求めたら、冒頭の発言が飛び出した。相変わらずの歯切れのよい物言いに苦笑いしていると、「新しいことにチャレンジするってだけで楽しいじゃないですか」。確かにそうだ―。新しい部署でのぼくの役割が見えたような気がした。

 それからは何でもやってみた。WEB広告の営業をしてみたり、ビジネス書の出版を企画したり。でもどれもうまくいかない。落ち込むたびに小川さんに相談、というよりぐちを聞いてもらった。「そう簡単にうまくいきませんよ。10回に1回当たれば儲けもんです」。それじゃあ、失敗ばかりがつきまとう。リスクしかないじゃないですか―。反論すると、「だから出世は考えない方がいいって言ったじゃないですか。それでもチャレンジを楽しめる人が成功をつかむんです」

 なるほど。考えが甘かったようだ。...