[琉球から沖縄へ 続よみがえる古里]沖縄タイムス・朝日新聞共同企画

 朝日新聞大阪本社(大阪市)に戦前の沖縄の写真165枚が保管されていたことが28日までに分かった。戦火で多くが失われた沖縄の古い写真が大量に見つかるのはまれ。中には、1925(大正14)年に秩父宮(昭和天皇の弟)が来沖した時に中城御殿(なかぐすくうどぅん)の軒先で撮影された組踊の写真などがあり、戦前の沖縄を代表する琉球舞踊家、玉城盛重(たまぐすくせいじゅう)(1868~1945年)らが写っている。研究者は、組踊が衰退に向かう中、王国時代を残す姿が写っており、貴重な資料だと指摘する。(社会部・城間有)

1925年に組踊の演目「二童敵討」の出演者を写した写真。場所は、明治政府による「廃琉置県」で首里城を追われた王家が移り住んだ中城御殿の軒先。昭和天皇の弟、秩父宮が来沖した際に披露された。右端には沖縄戦で亡くなるまで琉球古典芸能を守り育てた舞踊家、玉城盛重が写っている=同年5月、首里市(現・那覇市)、朝日新聞社所蔵

 中城御殿は、戸や柱の礎盤(そばん)が特徴的なデザイン。1879年、明治政府による廃琉置県(琉球処分)で首里城を追われた最後の国王、尚泰(しょうたい)の一族が移り住んだ場所で、かつて王府が中国からの冊封使を歓待するために首里城で上演した組踊「二童敵討(にどうてぃちうち)」が皇族に披露された。

 2人の少年の敵役、阿麻和利を演じた盛重は、1866年に最後の冊封使を迎えた「御冠船踊(うかんしんおどり)」の担当役人だった小禄御殿(おろくうどぅん)の指導を直接受けた一人だ。

 盛重は時代が琉球から日本に変わってからも王府の流れをくむ踊りを研究し、後進を育てた。1945年、沖縄戦のさなかで命を落とし、撮影場所の中城御殿は灰じんに帰した。戦後、盛重の弟子らが復興させた型が、現在の琉球古典芸能の礎となっている。

■舞踊家の回想と合致 尚家が衣装貸与

「恩納節」を踊る舞踊家。裏には「台覧の古典劇」と書かれており、組踊と同じ時に撮影されたと思われる。ただしこの時の演目に「恩納節」があったという記録は見つかっておらず、誰が踊ったのかも不明

 朝日新聞社が所蔵する1925年の組踊を写した写真の場面は、戦後沖縄を代表する舞踊家、島袋光裕(1893~1987年)の著書「石扇回想録」(沖縄タイムス社、1982年)に書かれた回想と合致する。「二童敵討」の亀千代は、戦後は琉球料理研究家として活躍した田島清郷が演じ、他の演目も「郷土演劇界で最高メンバー」で演じられたという。親泊興照と儀保松男が踊った「打組天川」では、尚家が衣装を貸したと書いている。

 玉城盛重の足元にある酒具に注目するのは県立芸術大学付属研究所の鈴木耕太准教授。耳杯や瓶が金属製に見え、王国時代の王府が御冠船踊のために注文した仕様と合う。「衣装が尚家のものなら、小道具も実際の御冠船踊で使われたものの可能性がある。小道具は現存しておらず、王国時代の組踊を知る上で貴重」と指摘した。

 朝日新聞では過去に1935年の沖縄を写したネガが見つかったが、今回は紙焼き写真で、撮影時期は確認できる範囲で1921~44年。撮影場所は現在の那覇市が多く、石垣島などの写真もあった。ポストカードなど朝日新聞が撮ったものではないとみられる写真を除いた約130枚について沖縄タイムスが共同で取材した。首里城関連の13枚は昨年発表した。

■田島師匠の写真は貴重 志田さん懐かしむ

志田房子さん

 琉球舞踊重踊流宗家の志田房子さんは、組踊の写真に写っている玉城盛重に幼少期、また10代の時は同じ写真に写っている田島清郷にそれぞれ師事した。

 「田島先生は一つの動作を1日かけて指導するほど丁寧な方だった」と回想する。指導は全部しまくとぅばで、動作のこつや琉歌の歌詞を解説してくれた。「私もしまくとぅばで先生をお呼びするので、おかげで学校ではずっと『方言札』を首に提げていました」と笑う。

 田島は、1954年に沖縄タイムス社が創設した「新人芸能祭ベストテン」の審査員も務めたが、琉球料理の研究が主になったため、舞踊家としての名をあまり知られていない。踊っている写真は貴重だ。

 志田さんは「戦後に琉球芸能を復興しようと頑張ってきた方々がいたことを若い舞踊家にも知ってほしい」と話した。

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 今回見つかった写真は、朝日新聞社にプリントで所蔵されていた写真です。撮影者が不明の写真も含まれます。社外の刊行物に掲載されている写真が含まれていることも確認しており、今後の取材で撮影者などの特定ができた場合、クレジットや写真説明などを変更する可能性があります。写真の問い合わせは朝日新聞フォトアーカイブへ。メールshashin@asahi.com (写真特集を見る)