新型コロナウイルスの流行が続く中、世界各地でアジア人やアジア系の人々への暴力や嫌がらせが増加している。

 特に深刻なのは米国だ。

 西部のサンフランシスコでは1月下旬、タイ系の高齢男性が男に体当たりされ、路面に頭を打ち亡くなった。東本願寺のロサンゼルス別院は2月下旬、ちょうちん立てが燃やされる放火に遭った。

 南部ジョージア州アトランタと近郊では3月中旬、アジア系女性6人を含む8人が殺害される連続銃撃事件が起きた。容疑者は人種差別に基づく動機を否定しているものの全米のアジア系社会で警戒が強まった。

 米主要16都市で昨年起きたアジア系への憎悪犯罪(ヘイトクライム)は前年の2・5倍の122件。非営利団体には、昨年3月からの1年で暴力行為や嫌がらせの報告が約3800件寄せられたという。日本人への被害もある。安心して出歩けない状況になっているのだ。

 なぜアジア系の人々が憎悪犯罪の標的となるのか。

 指摘されているのは、差別をあおるような言動を繰り返していたトランプ前大統領の影響だ。新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と連呼し、中国への非難ややゆを繰り返した。その姿勢が差別を助長した、というのである。

 コロナ禍による経済的な不安や、感染を防ぐための行動の制約で、不満やストレスがたまっているのかもしれない。だが、そのはけ口が人種差別に向かうことは絶対に許されない。

■    ■

 トランプ政権下の米国では、白人警官による黒人男性暴行死事件を機に大規模デモが広がるなど、人種差別や社会の分断の問題が表面化した。

 バイデン大統領は人種間融和を掲げている。就任後すぐ、アジア系米国人への人種差別や偏見の解消を目指す大統領令に署名し、是正への意欲を見せた。

 しかし、その後もアジア系への被害はやまない。一度亀裂の入った社会を修復するのは極めて難しいと改めて知らされる。米中対立の激化も反中感情につながっている恐れが強く気掛かりだ。

 米政府は最近、新たな対策を発表した。全米の警察官らが憎悪犯罪に対応する能力を磨く研修などが柱だ。アジア系住民は言葉の壁で被害を届け出ない傾向があるため、通報方法を多言語で案内するという。

 バイデン氏は「米国はヘイトを許さない」と演説で語った。その決意を差別解消に着実につなげてほしい。

■    ■

 憎悪犯罪や人種差別に対し、各地で反対する集会が開かれている。

 全米オープンで人種差別への抗議を示した女子テニスの大坂なおみ選手ら著名人も非難の声を上げている。勇気づけられた人も多いだろう。

 菅義偉首相は米ワシントンで16日、バイデン氏と会談することになっている。菅氏には首相として在留邦人の安全を確保する責任がある。「人種差別を許さない」という明確なメッセージを発信してもらいたい。