社説

社説[池江選手 五輪へ]心揺さぶられた復活劇

2021年4月6日 07:28

 白血病と診断されてから2年余り、奇跡的な復活劇だった。 

 競泳の池江璃花子選手が、日本選手権の女子100メートルバタフライで優勝し、東京五輪の切符を手にした。

 「すごくつらくてしんどくても、努力は必ず報われるんだなと思った」

 ゴール後、大粒の涙を流しながら語った言葉にジーンときた。奇跡は奇跡でも、その笑顔からは想像できないような艱難(かんなん)辛苦を乗り越え、努力を重ね、自らつかみ取った奇跡である。

 白血病であることが分かったのは2019年2月。直前のアジア大会では6冠に輝くなど日本のエースとして東京五輪での活躍に期待が集まっていた時だ。

 それから約10カ月という長い入院生活が始まる。抗がん剤治療では1日に何度も吐き戻し、髪の毛も抜けた。体重は一時15キロ以上も落ちたという。

 つらい時期を経て大好きなプールに戻ったのは昨年3月。8月には復帰戦に臨むが、心配になるほど体は細くなり、筋力は衰えていた。

 しかしその後、驚くようなスピードで20歳の天才スイマーは、かつての泳ぎを取り戻していく。

 優勝した日本選手権のレースでは、前半は自分のペースで冷静に泳ぎ2番手で折り返した後、残り25メートルで一気に抜け出す底力を見せた。 

 地道に重ねたトレーニングと身体能力の高さに加え、病魔を克服した精神力で開いた「第二の水泳人生」といえる。

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 選手生命さえ危ぶまれる大病だったにもかかわらず、池江選手は自身の「インスタグラム」などを通して、闘病の様子、日々感じたことなどを発信し続けた。

 「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどい」と心境をつづったり、「ありのままの自分をみてもらいたい」と髪の毛が抜けた後の短髪姿も掲載した。 

 どんな状況であっても弱音を吐かず、前を向き、困難に立ち向かう姿が人々の心を打ったのだろう。

 闘病生活に入った池江選手に対し、競技や国の枠を超え激励と支援の動きが広がった。

 病の公表をきっかけに、骨髄移植への関心が高まり、日本骨髄バンクへのドナー登録が増えるといったうれしいニュースもあった。

 白血病を克服しての五輪出場決定は、同じように苦難と闘っている人たちの希望となったに違いない。

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 「自分が勝てるのはずっと先のことだと思っていた」と話すように、東京五輪の出場を一度は諦めていた。

 開催中の日本選手権では、2枚目の五輪切符を懸けて100メートル自由形にも出場する予定だ。

 高校1年で参加した前回リオデジャネイロ五輪では、粗削りだが潜在能力を秘めた泳ぎを見せてくれた。

 今回、体力が完全に戻っているとはいえないかもしれないが、でも諦めない心が未来を変えるというスポーツが持つ力を大舞台で見せてくれることだろう。

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