[命ぐすい耳ぐすい 県医師会編](1252)

 みなさん、平穏死と聞かれて何を連想されますか? 尊厳死、自然死、満足死、老衰、緩和医療、癌(がん)終末期などでしょうか。では延命死と聞かれて何を連想されますか? 延命治療、癌終末期、植物状態の患者、胃ろう、気管切開、人工呼吸器、人工透析などでしょうか。同じ死でも平穏死はポジティブな、延命死はネガティブな印象を受けます。

 私は訪問診療を専門にしている医師です。往診により患者さんの看取(みと)りにも立ち会っています。以前は病院に勤務していて患者さんを助けることしか考えていませんでした。しかし現在は高齢者や死期が近づいた患者さんの人生の終末期を、いかに尊厳をもって看取れるかを試行錯誤しながら診察しています。

 人間は不老不死ではありません。あなたも私もあなたの家族も100パーセント死にます。当たり前ですけどね。でもその当たり前のことが実感できないのが現実なんです。私は死期が近づく前に、本人や家族に、自分はどこで死にたいか、家族はどこで看取りたいかを聞くようにしています。死期が直前に近づいてからでは遅いのです。

 最後まで好きなことができる自由こそが、人間の尊厳であり、自由に生きて亡くなることが平穏死ではないでしょうか。それができるのは、病院ではなく自宅なのです。国の調査では国民の55%が自分の家で亡くなりたいと思っていました。しかし現実は日本人の80%は病院で亡くなっています。

 もちろん、不治の病ではなく、治療で治る見込みのある時は積極的に治療を受けることは大切です。そのために病院はあるのです。その一方で、病院の医師はどうしても死を医療の敗北ととらえる傾向があります。緩和医療は後回しになりがちです。その結果、「平穏」からほど遠い状況で死を迎えているように感じられます。

 生活の質を高めながら寿命を延ばし、痛み苦痛を緩和し、満足した日々を過ごしてもらい、患者さんが平穏死を迎えられるようにこれからも在宅医療にかかわっていきたいと思っています。(仲里政泰 名嘉村クリニック=浦添市