日本軍の「慰安婦」にさせられた女性らが日本政府に賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は訴えを退けた。

 焦点となっていた、国家は他国の裁判で裁かれないとする「主権免除」の日本側の主張を認め、国際慣習法の原則を適用した。

 1月には、同地裁が女性らを慰安婦にしたことは「反人道的犯罪行為」として、主権免除は適用できないと判断。日本政府に賠償を命じる判決を出しており、今回は正反対の解釈となった。

 文在寅大統領は、1月の判決に否定的な見解を示しており、政治の影響を受けた可能性もある。原則を適用せずに裁判を行えば、外交的な衝突は避けられないとの懸念もあったのではないか。

 判決で注目されるのは、慰安婦問題の解決に向けた2015年の日韓合意を有効と判断したことだ。合意には日本の謝罪と反省の内容が含まれているとして、政府レベルの救済に当たるとした。

 その上で、日本との外交交渉を含め、韓国政府の対内外的な努力も指摘している。

 今回の判決を受けて、日韓両政府に求められるのは合意を土台にし、問題解決を前進させることだ。

 合意に際し、当時の岸田文雄外相が慰安婦問題について「軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と指摘し、「日本政府は責任を痛感している」と述べた。

 「元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やし」を目的とする合意の原点に立ち戻り、努力を重ねることが両国に突き付けられた課題だ。

■    ■

 原告の1人で元慰安婦の李(イ)容洙(ヨンス)さん(92)は「あまりに荒唐無稽だ」と反発し、国際司法裁判所の判断を仰ぐとした。李さんは「日本の心からの謝罪を望む」と訴え、裁判を続けてきた。

 そもそも元慰安婦や支援団体などからは、日韓合意について、日本側の「法的責任」が明示されていないことや、「賠償」になっていないなどの反発があった。韓国政府が当事者側との十分な協議がなかったという批判もあり、全面的な支持を受けたものではない。

 慰安婦問題は、戦時下における女性への暴力のひとつであり、国際社会からも人権侵害とみられている。

 女性の人権を守り、尊厳を回復するためには、何より相互連携を強化することが必要だろう。被害者の視点に立った解決策を導く姿勢を打ち出してほしい。

■    ■

 歴史問題のほか、日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟判決など、日韓関係は国交正常化以降、最悪の状態とされる。

 判決は、主権免除の適否が焦点だったが、慰安婦問題が解決されたわけではない。加藤勝信官房長官は、主権免除の適用は「適切」との認識を示したが、内容を精査するとのコメントにとどめている。

 原告は控訴の意向も示しており、今後も裁判が続く可能性はある。元慰安婦の高齢化も進んでいる。日韓両政府には、不信と対立から抜け出す外交努力が求められる。