南西諸島の島々に、陸上自衛隊のミサイル部隊が配備されつつある。有事の際、相手国の航空機や艦船をミサイルで攻撃して食い止めようという作戦で、「仮想敵」は中国人民解放軍だ。背景には、中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」として警戒するアメリカの構想がある。しかし、こちらが撃てば、相手も撃ってくる。「ミサイル要塞」にされた島に住む人々が、弾雨にさらされない保証はない。国民の安全はどうやって守るのか。4月、菅義偉首相とバイデン大統領は首脳会談後の共同声明で台湾の問題に言及し、日米同盟の結束を確認した。アメリカは日本に対中国防衛体制への協力を望むが、もし台湾有事になれば、米軍基地が集中する沖縄や「ミサイル要塞」の島々は真っ先に標的になる。「対米従属」が極まった日米安保体制のあり様について、国民全体での議論はまったく行われていない。誰にも分からないところへ、今、日本は向かおうとしている。

■政府・防衛省の説明

 南西諸島に次々にミサイル部隊を配置していくことについて、防衛省はどのように説明してきたのか。与那国に沿岸監視隊が配備された2016年の防衛白書には、次のように書かれている。

 南西地域の防衛体制の強化 わが国は、約6,800の島嶼を抱えており、そのうち約1,000の島嶼が存在する南西地域は、部隊配備上の空白地域を形成しています。さらに、近年の厳しい安全保障環境を踏まえ、防衛省・自衛隊では、事態発生時に自衛隊の部隊が迅速かつ継続的に対応できるよう、南西地域の防衛体制を強化しています。
 このような考えの下、16(平成28)年3月に、南西地域における常続的な監視体制の整備のために与那国島に沿岸監視部隊を新編したほか、災害を含む各種事態発生時に自足に対処する警備部隊の配置先として、奄美大島、宮古島及び石垣島を選定し、地元の理解を得つつ、現在検討を進めているところです。(「平成28年版 防衛白書」P290)


 中国人民解放軍に対するミサイル部隊配備には触れず、「部隊配備上の空白地帯」、つまり<今のところ自衛隊がいないので穴埋めする>というような言葉が、この後、自治体やマスコミに対する説明でも、しばしば使われるようになる。

岩屋毅氏(防衛省HPより)

 例えば、2019年3月、当時の岩屋毅防衛相の記者会見。

 「今、日本の守りの最前線は南西地域だと思っております。その南西地域は1,200kmにも及ぶ広い海域です。従って、空白地帯がない様に自衛隊の部隊配置を進めさせていただいているところでございます」

 宮古島、奄美大島などの陸自部隊配備に触れ、「こういう部隊ができることによって、守りの空白地帯が埋まっていく。それから災害を含む各種事態に対する初動対応、迅速な展開が可能になると考えております」。

 やはり、対中国のミサイルのことは言わない。

「守りの空白地帯」とはどういう意味なのだろうか。実際には、かなり昔から航空自衛隊のレーダー部隊が宮古島に配備されているし、そもそも沖縄島は国内で一番多くの米軍基地が集中する地で、陸海空自衛隊も駐留している。そう考えて岩屋防衛相の発言を読み返すと、むしろ、その前の「今、日本の守りの最前線は南西地域」が問題であることがわかる。

 その意味を考えるうえで、まず政府がいつごろからこうした計画を持っていたのか、見直してみたい。

 日本は、中長期的な視野で安全保障政策や防衛力の規模を示したガイドラインである「防衛計画の大綱」を数年おきに定めている。それをもとに、どんな武器をどのぐらい調達するか、などを示したのが「中期防衛力整備計画(中期防)」で、日本の防衛政策は基本的にこれらに基づいて行われる。

 その「防衛大綱」に南西諸島の自衛隊配備が盛り込まれたのが、民主党の菅直人政権の時、2010年だった。

 「自衛隊配備の空白となっている島嶼部について、必要最小限の部隊を新たに配置するとともに、部隊が活動を行う際の拠点、機動力、輸送能力及び実効的な対処能力を整備することにより、島嶼部への攻撃に対する対応や周辺海空域の安全確保に関する能力を強化する」(「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」)

 この年の「中期防」には、与那国に配備されることになる「沿岸監視部隊」の新編が盛り込まれるが、ミサイル部隊への言及はなかった。これがわずかの間に変わる。

 2012年、自民党が政権を奪回。翌2013年、第二次安倍政権の下で、前回から3年で「防衛大綱」は作りなおされる。

 新大綱には「日米同盟の強化」「日米同盟の抑止力及び対処力の強化」という項目が入り、南西諸島についてはこう書かれた。

 「島嶼部等に対する侵攻を可能な限り洋上において阻止し得るよう、地対艦誘導弾部隊を保持する」「作戦部隊及び重要地域の防空を有効に行い得るよう、地対空誘導弾部隊を保持する」(「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」)

 これが現在、南西諸島の各島に建設され、配備されているものだ。

 その5年後、2018年に大綱はもう一度作り変えられ、軍事力の強化がさらに詳細に書き込まれ、「島嶼防衛用高速滑空弾部隊を保持する」(「平成31 年度以降に係る防衛計画の大綱」)と耳慣れない言葉が登場する。

 「高速滑空弾」というのは、地上から打ち上げて空気抵抗の少ない大気圏の上層で弾頭を分離し、GPSで誘導されながらグライダーのように滑空して敵艦に命中する新兵器。迎撃が難しいと言われているもので、現在開発中だ。

 民主党政権下で「必要最小限の部隊」から始まり、自民党政権になって「ミサイル部隊」、さらには新型兵器の開発へと短期間に急速に強化されてきたのが分かる。

 このような動きの背景には、何があるのか。「防衛大綱」が南西諸島の自衛隊配備に言及した2010年、アメリカでも、ある動きがあった。

■アメリカの作戦構想と戦略

 アメリカは4年ごとに国防計画の検討を行っていて報告書を公表している。タイトルは”Quadrennial defense review report(QDR)”、日本では「4年毎の国防見直し」と呼んでいる。 その2010年版で中国の軍事力への警戒感を示したうえで、”joint air sea battle concept”(統合エアシーバトル構想)という作戦構想に言及する。

アメリカの「4年毎の国防見直し」報告書(左)と軍事系シンクタンク「戦略予算評価センター」のレポート

 これに合わせて、軍とのつながりが深い軍事系シンクタンク「戦略予算評価センター」(Center for Strategic and Budgetary Assessment, CSBA)が、QDR2010と同じ年に「エアシーバトル――作戦構想の出発点」などのレポートを発表する。

 米中両軍の衝突を想定したアメリカ軍のための作戦構想である。

 軍事力の面で、中国は今もってアメリカには及ばず、航空戦力も海洋戦力も、高性能の空母や潜水艦、戦闘機などアメリカの方が優れている。その状況で、もし戦争になったら中国はどんな戦い方をするだろうか、を検証している。

 人民解放軍がとるであろうとみられているのが、”anti-access and area denial( A2/AD)”、日本語で言うと「接近阻止/領域または地域拒否」という戦法だ。アメリカ軍の高価な空母や航空機などの兵器を、比較的値段の安い弾道ミサイルなどで撃破し、無力化して近づけないようにする、域内での相手の軍事行動を制約する。そして、「第一列島線」とよばれる島々の線を越えていく、というものだ。

「エアシーバトル」に示された「第一列島線」(南西諸島を含む島嶼線)とその東側の「第二列島線」

 「第一列島線」とは1980年代に中国海軍が「作戦海域」として示した概念のラインだ。上の地図は「エアシーバトル―作戦構想の出発点」に示されたもの。九州から南西諸島を経て、フィリピン、カリマンタン島まで続く島嶼線が「第一列島線」だ。「エアシーバトル」では、琉球諸島を”Ryukyus Barrier”(琉球の防壁)と呼び、「同盟国」とともにミサイル攻撃や対潜水艦戦、サイバー攻撃を駆使し、中国の人民解放軍の艦船や航空機の東進を阻止して接近を阻み、「第一列島線」の西側を、”No Man’s Sea”(無人海域)にするというのが第一段階の作戦として記載されている。

 さらに、初期段階では、沖縄の米空軍嘉手納基地などは地理的に中国に近く、ミサイル攻撃を受けやすい「脆弱」な位置にあるため、在日米軍の主力である航空部隊はいったん分散退避することも検討されている。もし米中紛争が起きたら、第一段階で、最前線で戦うのは日本の自衛隊と米軍の残留部隊ということになる。多くの日本人は、日本を外敵から守ってくれるのは在日米軍だと信じているが、現実に戦争になった場合に期待通りの展開になるのかどうか、は真剣に検証しなければならない。

 この「エアシーバトル」構想については、米軍関係のシンクタンクや海軍大学などの機関でさまざまな研究論文が発表された。「エアシーバトル」を批判しつつ再提案した「オフショアコントロール論」、「エアシーバトル」を補完し、第一列島線内外での作戦内容を詳述した「海洋プレッシャー戦略」など、いくつかの構想が示されている。その中で、2012年に発表された論文「アメリカ流非対称戦争」(Toshi Yoshihara and James R. Holmes, “Asymmetric Warfare, American Style”)に注目すべき記述がある。

 中国を、イギリスの人気小説「ハリー・ポッター」に登場する闇の魔法使いになぞらえたうえで、中国に対抗するための戦術に言及。「琉球諸島」を明記し、そこに陸上自衛隊の車載型の地対艦ミサイルを配備することによって「東シナ海の多くの部分を中国水上艦部隊にとっての行動不能海域にすることができる」と書かれている。中国の戦法とされる「A2/AD」を、逆手にとって、こっち側が使おうという作戦であり、まさに南西諸島で行われているミサイル部隊の配備はこの発想に一致している。