南西諸島の島々に、陸上自衛隊のミサイル部隊が配備されつつある。有事の際、相手国の航空機や艦船をミサイルで攻撃して食い止めようという作戦で、「仮想敵」は中国人民解放軍だ。背景には、中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」として警戒するアメリカの構想がある。しかし、こちらが撃てば、相手も撃ってくる。「ミサイル要塞」にされた島に住む人々が、弾雨にさらされない保証はない。国民の安全はどうやって守るのか。4月、菅義偉首相とバイデン大統領は首脳会談後の共同声明で台湾の問題に言及し、日米同盟の結束を確認した。アメリカは日本に対中国防衛体制への協力を望むが、もし台湾有事になれば、米軍基地が集中する沖縄や「ミサイル要塞」の島々は真っ先に標的になる。「対米従属」が極まった日米安保体制のあり様について、国民全体での議論はまったく行われていない。誰にも分からないところへ、今、日本は向かおうとしている。

■「沖縄戦の再来」

 こちらがミサイルで攻撃すれば、相手からも撃たれる。もし本当に人民解放軍が南西諸島を越える気ならば、まず島のミサイル部隊を潰してから来ると考えるのが自然だ。その時、住民の安全をどのように確保できるか。それが最大の問題だ。

 各島の人口は、宮古島約4万9千人、石垣島約4万8千人、奄美大島約5万8千人。これだけの人々を守る手だてはあるのか。

 2004年、有事の場合に攻撃などから国民を守るため、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」が制定された。略して「国民保護法」。有事や大規模テロの際に、国民の生命財産を守るための法律で、その責務は国と各自治体が担う。同法に基づき、各自治体は「国民保護計画」を作成。有事においての国民の人権保護や情報提供、避難指示、救援などさまざまな局面での対応を記している。

石垣市の国民保護計画の概念図

 これは石垣市の国民保護計画に記載された概念図。住民が島外へ避難する際のイメージを示している。島内の避難施設を経て、飛行機や船で沖縄島へ向かい、そこから県外へ、という流れだが、石垣市の人口は5万人近く。すべての人が島外に出るのにどれぐらいの日数がかかるか、は書かれておらず、必要な飛行機や船をどう確保するかも具体策はない。仮に沖縄島まで避難できたとして、米軍基地が日本で一番集中している場所が、果たしてどれぐらい安全と言えるのか。それについても言及はない。

 また、宮古島の国民保護計画に添付された島内の避難施設の一覧表には、学校や公園、公民館などが列記されている。これではミサイル攻撃から市民を守る避難場所として、あまりに心許ない。地震や大型台風などの自然災害を想定した避難所でしかないのだが、現状を考えれば、地元自治体だけでは、それ以上の計画などどうしようもないということになる。

赤嶺政賢氏(同氏HPより)

 2018年11月の衆院安全保障委員会で、沖縄選出の赤嶺政賢議員が、防衛省内の検討文書を示した。仮に離島に2000名の自衛隊員がいたとして、4500名の敵部隊が着上陸侵攻をしてきた場合、それでは劣勢になる。そこに2000名の増援を送ってようやく奪還が可能という筋書きをしましたものだという。一方の残存率が30%になるまで戦うという想定、つまり7割は戦死ということだが、赤嶺議員は「沖縄戦の再来」と訴えている。

 はっきりしているのは、奄美、宮古、石垣に配備されたミサイル部隊は、離島防衛のための戦力ではないということ。隊員数から考えても島を守れるだけの規模ではない。宮古海峡など南西諸島の島々の間を通り抜けようとする中国海軍を、ミサイル攻撃で封じ込めるための部隊配備であるにもかかわらず、反撃を受けた場合に島の人々を守るための手立ては、現段階では、まったくできていないと言わざるを得ないのが現状なのだ。

■どうなる島外避難

 離島の自治体の危機管理担当に聞くと、島外避難については、県とともに協議しなければならない、と言う。沖縄県の防災危機管理課に尋ねると、島外避難は国との調整が必要になる、と言う。沖縄に割拠する米軍が有事にどう行動するか、など全く分からない。

沖縄県の国民保護計画の一部

 沖縄県の国民保護計画の「在沖米軍との連携」という項目には2行の記述がある。確かに県土に密集する米軍基地の動向は、県民の安全を考えるうえで無視はできない。しかし、米軍とへたに「連携」などすれば、住民が軍と行動をともにして筆舌に尽くしがたい犠牲を強いられた沖縄戦の二の舞になる危険性は大きい。

 沖縄・南西諸島は、米軍基地が日本で一番集中しているうえ、新たにミサイル部隊まで抱え、対中国封じ込め作戦の最前線に置かれてしまった。しかも島嶼県で県土は狭い。県民はどこに逃げれば無事でいられるのか。国民が安全でいられることは、勝つか負けるか以上に重大事であることは言うまでもない。

小西誠氏

 元航空自衛隊員で、「南西シフト」の問題を追及している軍事評論家の小西誠さんは次のように語る。

 「第一列島線を最前線とする米中紛争が起きれば、『先島限定戦争』になる可能性もある。ミサイル部隊が配備された島は、相手国からも攻撃を受けることになり、徹底的に破壊される。自衛隊は、島内にシェルターを設置する研究も行っているが、これで住民を守れるわけがなく、最終的には島の一部について『無防備地域宣言』を出し、島民はそこに避難して攻撃を避けるしかないだろう」

 「無防備地域宣言」とは、ある地域には軍事力を置かないということを相手国に宣言して攻撃を避けるというもので、ハーグ陸戦条約に基づいている。戦争になれば、それぐらい事態は深刻なのだ。

 今年1月、宮古島市で市長選挙が行われた。自民公明が推して4選を目指した現職の下地敏彦氏と、玉城デニー知事を支えるオール沖縄などの推す座喜味一幸氏が争い、座喜味氏が当選した。下地氏は、宮古島への陸上自衛隊配備を受け入れた市長だったが、対立候補の座喜味氏も配備は容認の立場だ。宮古島で最も重大ともいえる課題は、結局、この市長選の主要な争点にはならなかった。

座喜味一幸氏

 当選が決まった直後、座喜味氏は、ミサイル配備問題についてこう語った。

 「市長が説明会や地元との話し合いに入り、正しい情報を共有して議論を進める。市民の不安については市長が率先して情報を公開していく。市民の理解を得ない安全保障はないと考えている」

 これまで政府はこの問題について十分な説明をしていない。そもそも島々に配備したミサイルを、いつ、どのような状況で発射するか、などは何も明らかにされない。国が、有事の作戦構想を説明したうえで、国民が安全でいられるための情報を明らかにするのは当然だが、これまでの経緯を考えると、われわれ国民はもはや政府の言うことを鵜吞みにはできない。敗戦から76年。沖縄は、またしても戦争と軍隊に関わる深刻な問題に直面することになった。

■軍事的一体化の行方

 沖縄のアメリカ海兵隊普天間飛行場の全面返還が合意されて25年になる。この間、県内の米軍基地はあまり減らず、逆に自衛隊ミサイル部隊の配備が進むなど、沖縄全域の「要塞化」が進んでいる。背景には、日本とアメリカの「軍事的一体化」があり、名護市辺野古で建設中の埋め立て基地も「一体化」という点で共通している。

日米首脳会談後の共同記者会見(首相官邸HPより)

 現段階では想定しにくいとは思うが、アメリカと中国が紛争に突入すれば、戦域の目の前で米軍基地を抱えている日本は真っ先に攻撃を受けることになる。そしてその多くは沖縄に集中している。基地が攻撃目標になることは当たり前なのに、そのうえ中国を対象にしたミサイル部隊が南西地域に相次いで配備され、その先に何が起きるのかは国民には知らされず、議論もまったく行われていない。先の大戦のように国民を見殺しにする「捨て石作戦」などできるはずはないし、やってはならないが、最悪の事態を考えれば、沖縄・日本がアメリカから「捨て石」にされないとも言い切れない。

 この問題は、日米安保体制を支持するか否か、自衛隊の存在を認めるか否か、とはまた別と考えるべきだろう。国の防衛力としての自衛隊を認めることと、中国軍攻撃を想定したミサイル部隊の南西諸島配備を認めることとは、まるで意味が違う。「防衛力の保持は認めたから、あとは防衛省・自衛隊でお好きに」というわけにはいかないのだ。

 日本が中国を相手に戦争をするなど考えられないし、あってはならない。それによって被る被害はあまりにも大きすぎる。日米首脳会談の共同声明には、中国を念頭に「台湾海峡の平和と安定の重要性」が盛り込まれたが、万一、台湾有事が起きたとして、米中の紛争に参戦せざるを得ない状況を考えるのであれば、沖縄をはじめとして日本全体の国民の安全をどのように守るのか。アメリカと約束する前に、まず、そこから国民全体で議論しなくてはならない。中国による香港、新疆ウィグル自治区での弾圧や人権蹂躙は戦争で解決できる問題ではなく、国際世論の結束と国際機関による調査、そして今こそ外交の力が求められている。

 「対米従属」といわれるアメリカとの付き合い方を、敗戦国・日本はどこまで続けていくのか。沖縄、南西諸島で進められる「要塞化」を検証するとともに、将来にわたる日米関係を再検討すべき時に来ているのではないだろうか。

▽このコラムを最初から読みたい人のために

1,対中国のミサイル要塞にされていく南西諸島 自衛隊の「南西シフト」とは

2,急速に強化される自衛隊配備 背後にアメリカの作戦構想 その名も“琉球の防壁"