もともと崖の近くにいた人たちが、ぎりぎりのところまで追い詰められている。
内閣府の有識者研究会が、新型コロナウイルスの感染拡大による女性への影響を分析し公表した。
女性に深刻なダメージを与えたとする報告書が照らし出すのは、ジェンダー格差やひとり親世帯の困窮を放置してきた結果、弱者にしわ寄せがいくという構造的問題である。
報告書によると、昨年4月から今年2月までに全国の配偶者暴力相談支援センターなどへ寄せられたドメスティックバイオレンス(DV)相談件数は17万5693件で、前年同期の約1・5倍に増えた。
パートナーからの暴力にさらされているにもかかわらず、外出自粛の長期化で逃げ場を失い孤立を深める女性の姿が浮かぶ。
「夫に見張られて助けを求められない」など支援につながりにくい状況を考えると、被害はもっと深刻なのではないか。
「例年とは明らかに異なる」と書くのは、自殺の項目だ。
昨年の女性の自殺者は前年比935人増の7026人。男性が11年連続で減る中、女性は増加に転じた。経済上の問題のほか、DV被害、育児の悩みなどが背景にあるとされる。
有識者は「困難を抱える人の家庭では、もともとあった家庭内の問題が顕在化している」と指摘する。
弱い立場にある人が最も大きな影響を受けるという社会の脆弱(ぜいじゃく)性を放置すれば、男女格差はさらに拡大する。
■ ■
性別役割意識に基づく旧来の雇用慣行などから就業状況は女性に厳しいものとなり、「女性不況」も鮮明になった。
女性はコロナで打撃を受けた飲食業や宿泊業に従事する人が多く、加えて半数は立場の弱い非正規労働者で、より大きな影響を受けることになったのだ。育児や介護などで退職を余儀なくされるといった事情も重なった。
中でも厳しい現実に直面したのが、夫の収入がないひとり親や単身女性だ。
ライフラインである家賃を支払うことができない人が一定数存在するなど、シングルマザーの困難さが浮き彫りになった。
特別給付金の支給などひとり親世帯に対する支援があったとはいえ、雇用慣行の問題や非正規の待遇改善などに切り込まない限り、「女性不況」は今後も繰り返される。
■ ■
コロナによる経済困窮で知られるようになった女性たちの悩みに生理用品を買えない「生理の貧困」がある。
これまで支援がほとんどなく、声を上げづらかった問題を可視化したのは、ジェンダー平等の視点から取り組む民間の調査だった。
「コロナ下にあって逃げ場のない女性たち、女の子たちへの救済のために、ジェンダー的視点を入れた政策の設計が不可欠だ」と報告書は強調する。
照らし出された男女格差の問題に真正面から向き合う必要がある。