木村草太の憲法の新手

「憲法とは何か。」日本で続く統治機構の原則軽視、国家のあり方に悪影響

2021年5月2日 07:52有料

 [木村草太の憲法の新手](151)

 5月3日は憲法記念日。憲法の意義について改めて考えてみたい。

 憲法とは何か。この問いにはいろいろな答え方がある。私は、「過去の国家権力の失敗をリストにし、それを繰り返さないようにする規範」という説明を好む。国家権力は、過去に、(1)戦争(2)人権侵害(3)独裁という大失敗を繰り返してきた。そこで近代以降、国家を成り立たせるルールである憲法に、(1)~(3)を繰り返さないための工夫を盛り込むべきだ、と考えられるようになった。これが立憲主義だ。

 日本国憲法では、(1)第2章に戦争放棄と軍隊不保持(2)第3章に国民の権利(3)第4章以下に三権分立・二院制・地方自治といった権力分立が規定されている。

 憲法の理念、特に、(2)「国民の権利」については、国民に広く定着してきたように思われる。例えば、この1年のコロナ禍でも、感染症対策と「移動の自由」「営業の自由」「補償を求める権利」などとのバランスが、憲法に依拠して活発に論じられてきた。

 他方で、民主主義や権力分立の基本を定める(3)「統治機構」に関する憲法原則が軽視される事態が続いている。

 例えば昨年2月、当時の安倍晋三首相による全国の学校一律休校要請は、法的根拠が曖昧だった。憲法は「法律による行政」の原理を定め、国民の権利を制限するには、「制限に合理的な理由がある」という実質的根拠だけでなく、「国民の代表が法律の形式でそれを認めた」という形式的根拠が必要だ。

 子どもたちの教育を受ける権利を制限する場合にも、「それが科学的に見て感染症対策に必要だ」というだけでなく、法律の根拠が必要だ。しかし、休校要請による混乱以降も、感染症対策の「法律の根拠」への議論は活発ではなく、さまざまな要請の根拠となる特措法の整備や改正の動きはとても鈍いものだった。

 あるいは、この連載でも何度か論じてきたように、辺野古新基地建設についても、統治機構に関する憲法原則の軽視が顕著だ。米軍基地の設置は、設置自治体の自治権を大きく制限する。自治体の自治権に関する事項は法律で定めねばならないとする憲法92条に照らすなら、基地設置に伴う自治権制限の根拠法を法律に定める必要がある。その場合、特定自治体の自治権を特別に制限することになるので、憲法95条の求める住民投票が必要だ。しかし、米軍基地設置の根拠法や住民投票の整備は進まない。

 他に、内閣が4分の1以上の国会議員による国会召集要請(憲法53条)に応えなかったこと、公務員の人事は「法律の定める基準」(憲法73条4号)に従う必要があり、日本学術会議法7条3項は改選期ごとに105人の任命をしなければならないと定めているのに、首相が会員を99人しか任命しなかったことなども、統治機構に関する憲法原則の無視・軽視だ。

 統治機構の憲法原則の軽視・無視は、国民の権利の侵害のように、特定の人が重大な被害を受けるわけではないので、問題が伝わりにくい。しかし、これを放置すれば、政府は、国民やその代表の監視を免れ、国家のあり方をゆがめ続ける。改めて、憲法の意義を考え直す必要があろう。

(東京都立大教授、憲法学者)=第1、第3日曜日に掲載します。

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■木村草太 著
■四六判/211ページ

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