外国人の収容と送還のルールを見直す入管難民法改正案の今国会成立が見送られた。名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性(33)が3月に死亡した事案の真相究明を巡り、与野党協議が決裂。与党は強行採決の構えもみせていたが、一転して法案を取り下げた。

 人命にかかわる問題で紛糾する法案の採決を強行すれば、政府・与党のイメージダウンにつながり、秋までにある衆院選や7月の東京都議選に影響しかねないと判断したとみられる。

 問題含みの法改正の見送りは当然である。いったん白紙に戻し、課題を再検討すべきだ。

 法案の見送りとは別に、女性死亡に至る経緯は明らかにする必要がある。野党は、死亡前の女性の様子を映した監視カメラ映像の公開を要求し、与党は一貫して拒んだ。出入国在留管理庁は女性の遺族に「見せられない」と伝えた。

 なぜ、ここまで映像開示を拒むのか。生前、体調不良を訴えていた女性に対し、入管当局の対応が適切だったのかが問われているのである。映像開示は、死亡に至る経緯の究明に不可欠だ。かたくなに拒否する姿勢は「何か隠していることがあるのでは」との疑念を生む。

 女性を2月に診察した外部病院の医師の診断記録と、入管庁が4月に経緯をまとめて公表した中間報告で、内容に食い違いがあると問題視されている。真相究明に向けて、専門家を交えた第三者機関による調査を行うべきだ。

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 改正案に関し、自民党国対幹部は「廃案になる可能性が高い」としている。ただ、入管行政を巡る課題は残されたままである。不法残留となった外国人らの入管施設での収容が長期化しており、次回以降の国会で改めて法案が提出されるとみられる。

 現行では、難民認定申請中は本国への送還が停止される。送還を逃れるための申請繰り返しを防ぐため、取り下げられた改正案では、停止の効力が及ぶ回数を原則2回に制限するとしていた。認定に希望をつなぎ、申請する外国人に大きな恐怖を与えるものだ。制限撤廃などを含め、検討し直すべきだ。

 難民に準じる人を「補完的保護対象者」として在留を認める仕組みも盛り込まれていたが、具体的な救済対象に関する議論が十分ではなかった。将来的に法案を出し直すのであれば、積み残された問題点の解消に努める必要がある。

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 昨年、日本で難民と認定された人は47人で、認定率は1・3%だった。海外では数十%の国もあり、日本は「難民鎖国」とやゆされる。

 難民条約は、難民の生命や自由が脅かされる恐れのある地域への追放を禁止している。何回も申請を繰り返し、裁判を経てようやく認められる場合が少なくない。

 今回、世論の反発を受けて、政治的な思惑で法改正は断念された。「送還より保護を」と求める声に向き合い、国際水準に合った難民認定実務の実現を目指すべきだ。