東京五輪の開会式まで2カ月を切った。

 本番目前だというのに、新型コロナウイルス感染症は一向に収束する気配がない。東京、大阪などの緊急事態宣言が、さらに延長されるのは確実な状況だ。

 「平和の祭典」という五輪の理念も、「コロナに打ち勝った証し」という位置付けも、すっかり色あせてしまった。

 感染拡大という大きなリスクを抱え、中止を求める声が相次いでいる。五輪開催に積極的な意義を見いだすことは難しい。

 そんな折も折、国際オリンピック委員会(IOC)と日本政府の双方から、現状を無視した不用意な発言が飛び出した。

 IOCのコーツ調整委員長は会見で緊急事態宣言下の五輪開催について問われ、「答えはイエスだ」と断言したのである。

 大阪では、感染拡大によって医療が逼迫(ひっぱく)し、助かる命を助けることができない「医療崩壊」が起きた。

 緊急事態の下では、飲食業をはじめ多くの業界が休業や閉館を強いられる。

 小規模な企業ほど深刻な影響を受け、雇用にも悪影響を及ぼす。

 選手を除いて海外から7万8千人もの関係者が訪れる五輪を開催すれば、感染拡大のリスクは高まる。変異株が広がっているだけになおさらだ。

 五輪の主催者はIOCである。だが、緊急事態宣言下は平時ではない。宣言下の実施をIOCが断言するのは横柄と言うしかない。

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 コーツ氏発言について平井卓也デジタル改革担当相は、こう語って擁護した。

 「パンデミック(世界的大流行)下でのオリンピック開催というモデルを日本が初めてつくることになる」

 「国民の命と健康を守ることができるのであれば」という前置きがあったにしても、そのような前提で「パンデミック下のオリンピック開催」を積極的に肯定すること自体、国民感情を逆なでするような軽率な発言である。

 「パンデミック下のオリンピック」は、本来、あってはならないシナリオ。「パンデミックの下ではオリンピックは開催しない」というモデルこそ打ち立てるべきだ。

 五輪開催について菅義偉首相は「安全、安心な大会に全力を尽くす」と抽象論を語るだけで、具体的な説明を避け続けている。

 五輪を巡る国内の空気は異様である。

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 日本オリンピック委員会(JOC)の山口香理事は、日本の置かれた現状を「やめることすらできない状況に追い込まれている」と指摘する。

 昨春、五輪の1年延期をIOCに提案したのは安倍晋三前首相である。

 延期や中止に該当するかどうかは、日本政府が主体的に判断すべきことだ。

 政府は28日にも、東京などの緊急事態宣言の延長を決める。五輪実施によって感染拡大が生じれば、首相の政治責任は重大だ。

 中止を判断するのは今しかない。