沖縄のジュゴンが「2019年に絶滅した」と記した論文が英科学誌に投稿されていたことが分かった。

 衝撃を受けると同時に投稿者に驚かされた。

 5人の国内研究者グループのうち筆頭著者ら3人が、名護市辺野古の新基地建設で沖縄防衛局が設置した「環境監視等委員会」の委員だからだ。残る2人のうち1人も元委員だった。

 論文は、沖縄のジュゴンが19世紀以降どのように減ったかを分析している。

 07年以降に本島近海で確認されたジュゴンは、個体ABCと識別された3頭のみ。このうち個体Bは19年3月に今帰仁村の運天漁港沖で死んだ状態で発見された。残るCは15年7月以降、Aは18年9月以降、確認されていないことから、この海域では「絶滅した」と記している。

 国の天然記念物ジュゴンは国内では沖縄だけに生息し、世界の生息域の北限といわれる。辺野古・大浦湾はジュゴンの餌となる海草藻場が広がり、以前は食み跡が確認されたり、周辺海域で回遊する姿が見られたりした。

 仲井真弘多元知事が埋め立てを承認した際、防衛局に付した留意事項で「ジュゴン、ウミガメ等海生生物の保護対策の実施について万全を期すこと」と明示したのは工事による影響を懸念したためだ。

 もし論文が事実であれば承認の前提条件が崩れたことになる。防衛局はただちに工事を中止すべきだ。本当に絶滅したのか、その原因は何だったのかを環境省と共に徹底的に調査してもらいたい。

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 防衛省側は絶滅を否定し、論文について「研究者個人の活動として執筆されたもの」との認識を示している。

 だが投稿者5人のうち4人が環境監視等委員会と関わりがある研究者だ。個人の活動では済まされない。

 論文に対しては環境保護の専門家らから「科学的な根拠に欠ける」「姿が見えないから絶滅したというのは、都合のいい解釈」などの批判の声が上がっている。

 環境省の調査では昨年6月に古宇利島の海域で食み跡が確認された。防衛局の調査でも昨年、鳴き声の可能性のある音が埋め立て海域付近で繰り返し認められている。

 絶滅と判断するのは早計だが、危機的な状況にあるのは確かである。工事をいったん止めて時間をかけてジュゴンの生態に合わせた調査に取り組む時だ。

 鳴き声とみられる録音データについては環境団体が公表を求めている。検証できるように応じてほしい。

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 19年9月の環境監視等委員会で、委員から「絶滅の可能性が高い」との発言があったことが議事録に記録されている。防衛局は委員会を公開せず、後日公表される議事録も発言者を伏せられているため、誰の発言かは分からないままだ。

 絶滅したと考える研究者が、その保護対策について話し合うというのは県民を欺くような行為だ。これまでの助言が妥当かも疑わしくなる。説明責任を果たすためにも委員会の全面公開を求める。