専門家の提言は生かされなかった。世論も置き去りにされたままだ。

 東京五輪・パラリンピック組織委員会、東京都、政府、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)による5者協議が21日開かれ、五輪の観客数上限を会場定員の50%以内で最大1万人とすることを決定した。

 新型コロナウイルス感染対策の政府のイベント制限に準じた形だが、五輪は東京を中心に42会場で開催される。同時に複数の競技が実施されるため、他のスポーツイベントとは比較にならない。

 組織委員会は会見で、学校単位の子どもやIOCなどの関係者、招待客は観客に含まれないとした。「1万人+アルファ(α)」で別枠扱いとなれば上限は守られないことになる。さらに、開会式の観客数については「精査中」と答え人数さえ明らかにしなかった。スポンサー枠が一体どれぐらいあるのか、関係者とは誰なのか。総人数や内訳を早急に明らかにすべきだ。

 政府分科会の尾身茂会長ら感染症の専門家は、五輪は無観客が望ましく、観客を入れるとしても、他の大規模イベントの基準よりも厳しい上限を設けるべきだと提言してきた。

 東京では新規感染者数の減少ペースが鈍化。感染力の強いインド変異株の広がりも大きな不安要因になっている。全国の人出も増加傾向にある。緊急事態宣言の解除で、開放感からリバウンドが起こる可能性は少なくない。

 尾身会長らのいう人の流れを抑える感染対策と「矛盾したメッセージ」を送ってしまうことへの懸念は大きい。

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 国民の危機感と、今回の決定の間には大きな溝がある。

 共同通信が19、20日に実施した全国電話世論調査では、五輪を「無観客で開催するべきだ」が40・3%、「中止するべきだ」が30・8%に上った。

 開会式まで約1カ月となっても慎重世論が収まらず、無観客を求める意見が最多だった。

 五輪で感染が再拡大することに不安を感じているのだ。

 五輪成功を政権浮揚につなげたい菅義偉首相は、開催や観客にこだわった。一方「安心・安全なオリンピックの実現」と繰り返すだけで、国会でも科学的な知見に基づいた議論を避けてきた。

 何のための、誰のための五輪なのか。五輪開催が国内のコロナ対策を遅らせたり、救える国民の命を危険にさらすことは許されない。

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 菅首相は、五輪期間中に、緊急事態宣言が出された場合は、無観客とすることも辞さない考えを示した。もともと専門家も世論も「無観客」を支持していたわけで、緊急事態が発令されることになればその責任こそが問われる。

 海外から訪れる選手や関係者の感染リスクはもちろん、県境を越える人の流れで、国民の命が危険にさらされるリスクが増大するのは明らかだ。再び、緊急事態が宣言されれば、国民の理解が得られぬまま「強行」した菅首相の政治責任は免れない。