社説

社説[悲しみの現場]花手向ける人絶えず…

2016年12月31日 09:35

 「お父さんだよ、お父さんのところに帰るよ。みんなと一緒についてきてよ」

 沖縄の風習にならい「魂(マブイ)」を拾いにきた被害者の父親が、雑木林に向かって呼ぶ声が今も耳に残る。

 20歳の女性の命が奪われた暴行殺害事件。容疑者は元米海兵隊員で軍属の男だった。

 本紙社説は遺体が発見された翌日の5月20日から5日続けてこの問題を取り上げている。やりきれない悲しみと強い憤り、悔恨の思いにかられたからである。

 恩納村の山あいの遺体遺棄現場は、年の瀬のこの時期も訪れる人が絶えず、真新しい花が手向けられていた。事件から7カ月がたっても、怒りは収まらず、悲しみが澱(おり)のように沈んでいる。

 本紙の2016年県内十大ニュースの1位は事件を受けて6月に開かれた県民大会。被害者と同年代の玉城愛さんは「再発防止や綱紀粛正などという使い古された幼稚で安易な提案は意味を持たない。人間の命を奪う軍隊の本質から目をそらす貧相なものだ」と強い口調で両政府を非難した。

 当時、政府サイドから伝わってきたのは「最悪のタイミング」という言葉である。オバマ大統領の広島訪問を控えていたからだ。

 沖縄の負担軽減を掲げた日米特別行動委員会(SACO)の最終報告から20年。基地の整理縮小が遅々として進まない中での事件に、県民の心の奥底で大きな変化が起きている。

 米軍の事件・事故や演習被害に対する受忍度が、どんどん低くなっているのである。

■    ■

 ハワイでの日米首脳会談に間に合わせるように、両政府は今月、地位協定の軍属の範囲を狭める「補足協定」を結ぶことで合意した。米軍属の男が起訴された事件を受けた再発防止策の一環だ。

 米側が優先的裁判権を持つ軍属の範囲を縮小することで、管理を強化する狙いがある。しかし軍属の範囲をいくらか狭めたとしても、基地が集中する沖縄での抑止効果は限定的といわざるを得ない。

 米軍基地は地位協定によって米軍の排他的管理権が認められている。基地の外でも、米軍は各種の特例法に基づきさまざまな特権が与えられている。

 オスプレイが墜落した事故でも米軍は海上保安庁を現場に入れず、日本の捜査機関は蚊帳の外に置かれた。

 県民が求めているのは、その地位協定の抜本的改定である。

■    ■

 被害者の父親は先月公表した手記で「なぜ娘なのか、なぜ殺されなければならなかったのか。娘の無念を思うと気持ちの整理がつきません」とつづっている。

 政府によって「命の重さの平等」が保障されていないとすれば、私たちは、私たち自身の命や暮らし、人権を守るために立ち上がり、抗(あらが)う覚悟を示さなければならない。

 深い悲しみと怒りに覆われた1年だったが、後々振り返った時、基地負担軽減に向けて大きな一歩を踏み出した年として記憶されることを願っている。

これってホント!? 誤解だらけの沖縄基地
沖縄タイムス社編集局編
高文研
売り上げランキング: 24,236

あわせて読みたい

関連リンク

社説のバックナンバー

沖縄関連、今話題です(外部サイト)

JavaScriptをOnにしてください

アクセスランキング

ニュース 解説・コラム

沖縄タイムスのお得な情報をゲット!

友だち追加
LINE@

沖縄タイムスのおすすめ記事をお届け!

友だち追加
LINE NEWS