上記当事者間の福岡高等裁判所那覇支部2020年(行ケ)第1号地方自治法251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消請求事件について、同裁判所が21年2月3日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。 

新基地建設が進む米軍キャンプ・シュワブ沿岸部=沖縄県、名護市辺野古

 【主文】

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。 

 【理由】

 第1 事案の概要等 

 1 沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋め立て(以下「本件埋立事業」という)に関し、沖縄県漁業調整規則(1972年沖縄県規則第143号。2020年沖縄県規則第53号による改正前のもの。以下「本件規則」という)41条に基づき、上告人に対し、埋立区域内に生息する造礁さんご類を埋立区域外に移植することを内容とする採捕の許可を求める2件の申請(以下「本件各申請」という)をしたが、上告人は何らの処分もしなかった。被上告人は、本件各申請を許可する旨の処分(以下「本件各 許可処分」という)をしない沖縄県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反するなどとして、同県に対し、地方自治法245条の7第1項に基づき、本件各許可処分をするよう求める是正の指示(以下「本件指示」という)をした。 

 本件は、上告人が、本件指示は違法な国の関与に当たると主張して、地方自治法251条の5第1項に基づき、被上告人を相手に、本件指示の取り消しを求める事案である。原審は、上記法定受託事務の処理が法令の規定に違反し、本件指示は適法であるとして、上告人の請求を棄却した。 

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

 (1)ア 漁業法(18年法律第95号による改正前のもの。以下同じ)65条2項1号は、都道府県知事は、漁業取り締まりその他漁業調整のため、水産動植物の採捕に関する制限または禁止に関して必要な規則を定めることができる旨を規定する。

 水産資源保護法(18年法律第95号による改正前のもの。以下同じ)4条2項1号は、都道府県知事は、水産資源の保護培養のために必要があると認めるときは、水産動植物の採捕に関する制限または禁止に関して、規則を定めることができる旨を規定する。(以下、上記の各規定を併せて「漁業法65条2項1号等」といい、漁業法および水産資源保護法を併せて「漁業法等」という)

 漁業法65条2項1号等により都道府県が処理することとされている事務は、法定受託事務である(地方自治法2条9項1号、漁業法137条の3第1項1号、水産資源保護法35条)。 

 イ 本件規則は、漁業法等その他漁業に関する法令とあいまって、沖縄県における水産資源の保護培養、漁業取り締まりその他漁業調整を図ること等を目的とするものである(1条)。

 本件規則は、造礁さんご類を採捕してはならない旨を規定するが(33条2項)、試験研究等のための水産動植物の採捕に係る知事の許可(以下「特別採捕許可」という)を受けた者が行う当該試験研究等については、同項の規定を適用しないものとしている(41条1項)。

 同条2項は、特別採捕許可を受けようとする者は、所定の申請書を知事に提出しなければならない旨を規定する。

 沖縄県知事は、特別採捕許可の申請について、標準処理期間(行政手続法6条)を45日と定めるとともに、申請内容に必要性と妥当性が認められること等を内容とする審査基準(同法5条。以下、同審査基準を「本件審査基準」という)を定めた上、これらを公にしている。

 (2) さんご類は、サンゴ礁の形成に不可欠な役割を果たすとともに、漁業の対象となる生物の生息場所等として機能し、周辺の水産資源の保護、漁場の形成等の点で重要な役割を果たしている。さんご類の移植については、移植後の生残率は高くないとされており、沖縄県においては移植から4年後の生残率が20%以下というデータもある。 (3) 国は、アメリカ合衆国軍隊が使用する沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場につき、同国との間で、一定の措置を講じた後に返還される旨を合意し、その後、同飛行場の代替施設を名護市辺野古沿岸域に設置することとした。

 (4) 沖縄防衛局は、名護市辺野古の辺野古崎地区およびこれに隣接する水域(以下、この水域を「本件水域」という)に上記代替施設を設置するため、13年3月22日、沖縄県知事に対し、本件水域の公有水面の埋め立て(本件埋立事業)の承認を求めて、公有水面埋立承認願書を提出した(以下、この出願を「本件埋立出願」という)。

 同願書に添付された環境保全に関し講ずる措置を記載した図書(以下「本件図書」という)は、本件埋立事業に係る環境影響評価書(環境影響評価法等に基づいて作成されたもの)を踏まえて作成されたものであるところ、本件図書には、本件水域内に生息するさんご類について、避難措置として適切な場所に移植を行う旨が記載されていた。

 当時の沖縄県知事は、本件埋立出願につき、公有水面埋立法4条1項各号の要件に適合すると判断して、13年12月27日、同法42条1項に基づく承認(以下「本件埋立承認」という)をした。

 (5) 沖縄防衛局が本件埋立承認の後に実施した土質調査の結果、本件水域のうち辺野古崎の東側部分(以下「大浦湾側」という)における大半の水域の地盤が軟弱であることが、18年頃までに判明した(以下、この水域を「本件軟弱区域」という)。この結果を受けて、同局は、本件軟弱区域について、本件埋立出願の願書に記載された設計の概要に含まれていない内容の地盤改良工事(以下「本件地盤工事」という)を追加して行うことを決定した。  

 (6) 沖縄県副知事は、18年8月31日、沖縄県知事の職務代理者の委任に基づき、沖縄防衛局に対し、上記(5)の事情により本件埋立事業が公有水面埋立法4条1項1号および2号の各要件に適合していないこと等を理由として、本件埋立承認を取り消した。もっとも、国土交通大臣は、地方自治法255条の2第1項に基づく沖縄防衛局の審査請求を受けて、19年4月5日付けで、上記の本件埋立承認の取り消しを取り消す旨の裁決をした。

 (7)ア 沖縄防衛局は、19年4月26日および同年7月22日、上告人に対し、本件埋立事業に係る環境影響評価書に基づく環境保全措置(造礁さんご類の移植技術に関する試験研究)の実施を目的として、大浦湾側に生息する合計約3万9590群体の小型さんご類(以下「本件さんご類」という)を本件水域外の近隣の水域に移植することを内容とする特別採捕許可の申請(本件各申請)をした。

 本件さんご類の具体的な生息場所は、本件軟弱区域外の護岸造成工事(以下「本件護岸工事」という)が予定されている箇所またはその近辺に限られている。

 イ 上告人は、本件各申請について、本件審査基準にいう申請内容の必要性および妥当性があるか否かを判断することができないなどとして、特別採捕許可の申請に係る標準処理期間を経過した後も何らの処分もしていない。

 ウ 漁業法等を所管する大臣である被上告人は、本件各許可処分をしない沖縄県の法定受託事務の処理が、漁業法65条2項1号等に違反するなどとして、20年2月28日付で、同県に対し、地方自治法245条の7第1項に基づき、7日以内に本件各許可処分をするよう求める本件指示をした。

 (8) 沖縄防衛局は、20年4月21日付で、沖縄県知事に対し、公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項に基づき、本件埋立事業に係る設計の概要について、本件地盤工事を追加する旨の変更の承認の申請(以下「本件変更申請」という)をした。

 (9) 上告人は、本件指示に不服があるとして、20年3月30日付で、国地方係争処理委員会に対し、地方自治法250条の13第1項に基づく審査の申し出をしたが、同年6月19日付で、本件指示が違法でないと認める旨の審査の結果の通知を受けた。

 上告人は、これに不服があるとして、同年7月22日、同法251条の5第1項1号に基づき、本件訴えを提起した。 

 第2 上告代理人加藤裕ほかの上告受理申し立て理由第2点について

 1 所論は、仮に沖縄県知事の特別採捕許可をしない対応に瑕疵かしがあるとしても、本件規則という都道府県規則に違反するにとどまり、漁業法65条2項1号等の法令には違反しないから、地方自治法245条の7第1項所定の法令違反が成立する余地はないというものである。

 2(1) 地方自治法245条の7第1項は、国家行政組織法5条1項に規定する各省大臣等は、所管する法律またはこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正または改善のために講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる旨を規定する。

 そして、前記第1の2(1)のとおり、漁業法65条2項1号等により都道府県が処理することとされている事務は法定受託事務に該当するところ、漁業法65条2項1号等においては、都道府県知事は、漁業調整や水産資源の保護培養のため、水産動植物の採捕の制限または禁止に関して必要な規則を定めることができる旨が規定されている。 

 漁業法65条2項1号等の趣旨を検討すると、海その他の公共の用に供する水面については、水産資源の保護培養を図るとともに(水産資源保護法1条)、その総合的な利用により漁業生産力を発展させるため(漁業法1条)、本来、広域的な水産資源の適正な管理につき責務を有する国において、その利用を制限しまたは禁止する措置等を講ずる必要がある。

 もっとも、都道府県の区域ごとに講ずべき措置については、その内容を一律に規定することが困難であり、また、具体的な事情に応じて随時変更することを要するものが多いという性質があるため、漁業法65条2項1号等は、当該措置に関する規定を都道府県知事の定める規則に委ねることとしたものと解される。

 そうすると、漁業法65条2項1号等は、都道府県知事が、規則を定めるに当たり、水産資源の保護等に関する専門技術的な知見を踏まえ、個別具体的な事情に即した妥当な措置がされることを確保するため、当該措置を個別の事案ごとに行政庁の裁量判断に委ねることを予定しているということができる。 

 このように、漁業法等に係る都道府県の法定受託事務の処理について定める漁業法65条2項1号等は、都道府県知事の定める規則およびこれに基づく行政庁の個別具体的な措置の双方により、前記の漁業法等の目的に従って水産動植物の採捕を制限しまたは禁止することとする趣旨の規定であると解される。

 (2) 本件規則は、漁業法等その他漁業に関する法令とあいまって、沖縄県における水産資源の保護培養、漁業調整等を図ることを目的とし(1条)、造礁さんご類の採捕を全面的に禁止しつつ(33条2項)、知事から個別の特別採捕許可を受けた者が行う試験研究等に限り、その禁止を例外的に解除することとしている(41条1項)。 

 上記の特別採捕許可に関する判断は、本件規則41条1項の文言に加えて、上記(1)で述べた漁業法65条2項1号等の趣旨からすれば、水産資源の保護等に関する専門技術的な知見を踏まえて、当該申請に関する諸般の事情を総合的に考慮するとともに、漁業法等の目的等を勘案した知事の裁量に委ねられているが、裁量権の範囲の逸脱またはその乱用に当たると認められるときは、本件規則41条1項に違反するとともに、漁業法65条2項1号等にも違反することとなると解するのが相当である。

 3 したがって、本件規則41条1項に基づく特別採捕許可に関する沖縄県知事の判断は、裁量権の範囲の逸脱またはその乱用に当たると認められる場合には、地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当するということができる。所論の点に関する原審の判断は、以上の趣旨をいうものとして、是認することができる。

 第3 上告代理人加藤裕ほかの上告受理申し立て理由第1点(ただし、排除されたものを除く)について

 1 原審は、本件指示の時点で上告人が本件各許可処分をしていないことが、漁業法65条2項1号等に違反するから、本件指示は適法であると判断した。所論は、この上告人の対応は、本件各申請の内容に本件審査基準にいう必要性を認めることができないことによるのであって、上記の規定に違反するものではないから、原審の上記判断には法令の解釈適用の誤りがあるというものである。

 2 前記第2によれば、被上告人は、上告人において本件規則41条1項に基 

き本件各許可処分をしないことが裁量権の範囲の逸脱またはその乱用に当たると認められるのでなければ、沖縄県に対し、この法定受託事務の処理が漁業法65条2項1号等の規定に違反していることを理由に、地方自治法245条の7第1項に基づき本件各許可処分をすべき旨の指示をすることができないものと解される。

 そして、前記第2の2(1)で述べた漁業法65条2項1号等の趣旨等を考慮すると、本件規則41条1項に基づく特別採捕許可に関する知事の判断は、これが裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、重要な事実の基礎を欠く場合、または社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲の逸脱またはその乱用に当たると認めるのが相当である。

 3 本件各申請の内容の必要性に関する判断の適否を検討するに当たっては、前提として、沖縄防衛局において本件埋立事業のうち本件軟弱区域外の護岸造成工事(本件護岸工事)を適法に行うことができたかが問題となる。

 公有水面の埋め立て(以下、単に「埋め立て」という)のうち国が行うものについては、公有水面埋立法上、これを実施する官庁において、設計の概要等の所定の事項を記載した願書を都道府県知事に提出し(同法42条3項において準用する同法2条2項)、その承認を受けるべきであるところ(同法42条1項)、都道府県知事は、同法4条1項各号の要件に適合すると認める場合を除いては、この承認をすることができないとされている(同法42条3項において準用する同法4条1項)。

 その趣旨は、公有水面を所有する国(同法1条1項)による埋め立てであっても、環境保全上の問題を含め、埋め立てにより周囲に生ずる支障の有無等については、その地域の実情に通じた都道府県知事の審査を経るのが適当と考えられること等にある。

 そうすると、国の官庁は、都道府県知事の承認を受けて初めて、埋め立てを適法に実施し得る地位を得るものと解される。

 また、国が行う埋め立てに係る設計の概要の変更について、都道府県知事は、正当の事由があると認めるときは、承認をした埋め立てに関して設計の概要の変更の承認(以下「変更承認」という)をすることができ、変更承認に関して公有水面埋立法4条1項の規定を準用するとされている(同法42条3項において準用する同法13条ノ2)。

 このような同法の規定に加えて、上記のような同法42条1項に基づく承認の効果に照らすと、国の官庁は、変更後の設計の概要による埋め立てについては、変更承認を受けて初めて適法に実施し得る地位を得るのであって、変更承認がされるまでは工事に着手することができないものと解される。

 もっとも、公有水面埋立法上、国の官庁が埋め立ての承認を受けた後に設計の概要を変更する必要が生じた場合に、当該承認に基づく工事を中断すべき旨の規定は設けられていない。

 したがって、この場合において、当該官庁は、変更承認を受けていない段階であっても、当該変更に関する部分に含まれない範囲の工事については、特段の事情のない限り、当初の願書に記載された設計の概要に基づいて適法に 実施し得る地位を有しているものと解される。 

 これを本件についてみると、前記第1の2(5)のとおり、本件指示の時点では、本件埋立承認がされていた一方で、本件軟弱区域について本件埋立出願の願書に記載された設計の概要に含まれていない内容の本件地盤工事を追加して行う必要があることが判明していたが、上記特段の事情があったことはうかがわれない。

 そうすると、沖縄防衛局は、公有水面埋立法上、本件埋立事業のうち本件軟弱区域外における埋め立てに関する工事である本件護岸工事を適法に実施し得る地位を有していたということができる。

 4 以上を踏まえ、本件指示の時点で本件各申請の内容に必要性を認めることができないとした上告人の判断について、その適否を検討する。 

 上告人は、本件さんご類の特別採捕許可に関する裁量権を行使するに当たり、前記の必要性があると認められるためには、本件さんご類の一定割合の死滅を伴うことが予想される移植を正当化し得る事情として、普天間飛行場の代替施設の設置という本件埋立事業の目的が達成される見込みがあることを要するとした上で、本件埋立事業の埋立区域の相当部分に本件地盤工事を実施することが必要であり、本件指示の時点では、この工事を追加する旨の本件変更申請すらされていなかったため、上記見込みがあると認めることはできないという考慮に基づき、前記の判断をしたことがうかがわれる。

 しかしながら、前記3のとおり、沖縄防衛局は、公有水面埋立法上、本件護岸工事を適法に実施し得る地位を有していたところ、前記第1の2(7)のとおり、本件各申請の対象である本件さんご類は、この工事の予定箇所またはその近辺に生息していたというのである。

 そうすると、本件さんご類は適法に実施し得る本件護岸工事により死滅するおそれがあった以上、水産資源の保護培養を図るとともに漁業生産力を発展させるという漁業法等の目的を実現するためには、本件さんご類を避難させるべく本件水域外の水域に移植する必要があったというほかはない。 

 前記第1の2(4)によれば、本件図書を添付してされた本件埋立出願は、本件埋立承認により、環境保全等につき十分配慮されたものであることという公有水面埋立法4条1項2号の要件に適合すると判断されており、その設計の概要に含まれる本件護岸工事の実施は、本件図書に適合する妥当な環境保全措置が採られる限り、水産資源の保護培養等を図るという漁業法等の目的にも沿うものということができる。

 そして、前記第1の2(7)のとおり、本件各申請の目的は、本件図書の根拠とされた環境影響評価書に基づく環境保全措置の実施にあったというのである。

 したがって、前記の上告人の判断は、上記のような本件護岸工事を事実上停止させ、これを適法に実施し得る沖縄防衛局の地位を侵害するという不合理な結果を招来するものというべきである。

 以上によれば、前記の上告人の判断は、当然考慮すべき事項を十分に考慮していない一方で、考慮すべきでない事項を考慮した結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものというべきである。

 5 したがって、本件指示の時点で、上告人において本件各申請の内容に必要性を認めることができないと判断したことは、裁量権の範囲の逸脱またはその乱用に当たると認められる。

 所論の点に関する原審の判断は、以上の趣旨をいうものとして是認することができる。 

 第4 結論

 以上によれば、論旨はいずれも採用することができない。なお、その余の上告受理申し立て理由は、上告受理の決定において排除された。

 よって、裁判官宇賀克也、同宮崎裕子の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 【反対意見】

 裁判官宇賀克也の反対意見は次のとおりである。  私は、多数意見と異なり、本件で上告人が是正の指示の時点で、本件各申請に対して本件各許可処分をしなかったことが、裁量権の範囲の逸脱またはその乱用として違法であるとはいえないと考える。

 その理由は、以下のとおりである。

 公有水面埋立法に基づく承認がなされた場合、その処分に無効の瑕疵がある場合を除き、事業者は、承認を受けた設計の概要に従って工事を行い当該埋立事業を完成させる法的地位を有する。

 しかし、海底等の情報が不確実な段階で審査がなされることも想定されるから、同法に基づく承認の要件は、承認の時点で確実に判断することが困難な内容を含む、いわゆる将来予測型情勢判断とならざるを得ない。そのため、設計の概要の変更が制度上予定されている(同法13条ノ2、42条)。

 設計の概要に従った工事を行って当該埋立事業を完成させることが不可能なことが客観的に明白であるという特段の事情がある場合には、設計の概要の変更が必要になる。

 本件では、沖縄防衛局が実施設計のための海底地盤調査を行ったところ、設計の概要の前提とされた土質と異なり、設計の概要に従った工事を実施した場合、埋め立ての安全性が認められないことが客観的に明らかになり、同局もこのことを認めている。

 本件では、是正の指示がなされた時点では、変更承認の申請はなされていなかった。変更が客観的に見ておよそ実現不可能な場合には、当該埋め立ての目的は実現できないことになる。埋め立て工事の続行は許されるべきではなく、当初の承認は撤回されるべきであろう。

 本件の場合には、是正の指示の時点において、変更が客観的に見ておよそ実現不可能とまではいい切れず、本件地盤工事の対象区域外にある本件さんご類の移植のための特別採捕許可を申請することが、そもそも許されないとまではいえないように思われる。

 しかしながら、以下の理由から、本件指示の時点において、上告人が、本件各許可処分をしなかったことに裁量権の範囲の逸脱またはその乱用があったとはいえないと考えられる。

 公共事業を行うに当たり、複数の法令に基づく異なる許認可等を受ける必要があることは、きわめて一般的なことである。行政手続法11条2項、環境影響評価法33条2項は、かかる場合があることを前提にした規定である。

 そして、それぞれの許認可等の許否を判断するに当たっては、それぞれの制度の目的を踏まえて、各法令における許認可等の要件該当性を判断することになる。その結果、同一の公共事業について、ある法令に基づく許認可等は与えられても、他の法令に基づく許認可等は与えられないという結果になることも当然あり得ることになる。

 本件においても、公有水面埋立法に基づく承認がなされているとしても、特別採捕許可の申請の許否の判断においては、漁業法等その他漁業に関する法令とあいまって、沖縄県における水産資源の保護培養、漁業調整等を図ることという本件規則1条の目的を踏まえる必要がある。

 本件各申請に係るさんご類は、本件軟弱区域の範囲外に存在する。しかし、本件軟弱区域の箇所が大浦湾側の埋立事業全体のわずかな部分であり、その部分を除いて工事を完成させても、埋立事業の目的の実現に支障がないというわけではない。

 本件では、大浦湾側の大半に軟弱地盤が存在している。したがって、本件変更申請が不承認になった場合、本件各申請に係るさんご類の生息箇所のみの工事は無意味になるといわざるを得ない。

 他方において、さんご類の移植は極めて困難で、移植を行っても大半のさんご類が死滅する。そのことに鑑みれば、さんご類の移植は、それ自体として見れば、さんご類に重大かつ不可逆的な被害を生じさせる蓋然性(がいぜんせい)が高い行為といっても過言ではない。

 このことに鑑みると、本件各許可処分を行うべきだといえるためには、本件さんご類の移植を基礎付ける大浦湾側の埋立事業が実施される相当程度の蓋然性があることが前提となると考えられる。本件変更申請が拒否されることになれば、本件さんご類の移植は無駄になるばかりか、移植されたさんご類の生残率は高くないこと等から、水産資源の保護培養という水産資源保護法の目的に反することになってしまうと考えられる。

 したがって、本件各申請を受けた上告人が、本件護岸工事という特定の工事のみに着目して本件各申請の是非を判断するとすれば、「木を見て森を見ず」の弊に陥り、特別採捕許可の制度が設けられた趣旨に反する結果を招かざるを得ないと思われる。

 すなわち、本件各申請に対する判断をするに当たり、本件変更申請が承認される蓋然性は、要考慮事項であり、その点を考慮することなく申請の許否を判断すれば、考慮すべき事項を考慮しなかった考慮不尽となり、裁量権の範囲の逸脱またはその乱用となってしまうと考えられる。 

 本件指示の時点においては、設計の概要の変更承認の申請はなされていなかった。しかも、原審の確定事実によれば、約66ヘクタールにわたる軟弱地盤の改良工事のためには、当初の設計の概要に比べて約6倍の量の砂を使用して、深度約70メートルまでくいを海底に打ち込まなければならない箇所が存在するなど、きわめて大規模な工事が必要になる。

 したがって、上告人が、本件指示の時点において、本件各申請を許可すべきか否か判断できないとしたことは、要考慮事項を考慮するための情報が十分に得られなかったからであり、そのことについて上告人の責に帰すべき事案であるとはいえない。したがって、本件指示の時点において、上告人が本件各許可処分をしなかったことが裁量権の範囲の逸脱またはその乱用に当たるとまではいえないと考えられる。

 このように述べることは、本件指示の時点においては、いまだ変更承認の申請すらなされていなかったので、要考慮事項を考慮できなかったという事情があり、したがって、上告人が本件各申請について、同時点までに許可をしなかったことに違法性がないというにとどまる。

 本件変更申請が承認された場合には、特段の事情がない限り、本件各許可処分がされるべきことになると考えられる。 

 裁判官宮崎裕子の反対意見は、次のとおりである。 私は、宇賀裁判官の反対意見に全面的に同調するが、本件変更申請が承認される蓋然性は本件各申請の是非判断の要考慮事項であると考えるべき理由について補足して述べる。

 1 大浦湾側の軟弱地盤が判明した影響

 原判決の認定によれば、次のとおり認められる。

 本件では、本件埋立承認後に大浦湾側における大半の水域に軟弱地盤が存在することが判明し、本件地盤工事を実施しなければ、大浦湾側の埋め立てについて所定の安全性を確保できないことが明らかになった。

 本件地盤工事は、本件埋立出願の願書に記載された設計の概要(以下「当初の設計の概要」という)に全く含まれていなかった地盤改良工事であるから、公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項に基づき、当初の設計の概要に本件地盤工事を追加する旨の変更承認を受けない限り、この埋め立てを施行することはできない。

 その結果、大浦湾側の埋め立てについては、本件軟弱区域の埋め立て工事を実施することが技術的に不可能になるとともに、本件地盤工事を経ない限り所定の安全性を確保できないことが明らかになっていた。

 そして、本件指示の時点では、変更承認の申請すらされていなかったので、本件軟弱区域の埋め立て工事を実施できるかどうかは、まだ不確定な状況にあった。 

 2 本件変更申請が承認される蓋然性は本件各申請の是非判断の要考慮事項でると考えるべき理由について

 (1) 本件各申請は、大浦湾側の埋め立てのための本件護岸工事を実施するのに伴う本件さんご類の採捕についてされたものである。沖縄防衛局は、この埋め立てについて本件埋立承認を受けており、本件埋立承認は本件指示の時点において有効に存続していたから、本件護岸工事を適法に実施し得る法的地位を有していたと解されることについては私も異議はない。

 しかしながら、多数意見が、その点を指摘した上で、本件埋立出願は、本件埋立承認により環境保全等につき十分配慮されたものであることという公有水面埋立法4条1項2号の要件(以下「2号要件」という。)に適合すると判断されていることを挙げて、当初の設計の概要に含まれている本件護岸工事の実施は、本件図書に適合する妥当な環境保全措置が採られる限り、漁業法等の目的にも沿うものであると判示している部分には賛成できない。本件護岸工事の実施に伴う本件さんご類の採捕が漁業法等の目的に沿うか否かの判断においては、本件変更申請が承認される蓋然性が要考慮事項であると考える。

 以下、その理由を述べる。

 (2) 公有水面埋立法4条1項2号は、その文理上、埋め立てのための個々の工事ではなく、「埋立」が2号要件に適合することを求める規定である。

 本件においては、辺野古崎を挟んで東側(大浦湾側)と南側をまとめて一つの水域(本件水域)とする埋め立て(本件埋立事業)について本件埋立承認がなされているが、埋立区域の面積という点では前者が後者よりもかなり広く、埋め立ての容積という点でも(軟弱地盤部分を考慮すると)前者が後者よりも圧倒的に大きいことがうかがわれる。ただし、地形的には、それぞれの区域の埋め立てが相互に影響し合う関係にはないことがうかがわれ、現に南側の埋め立ては、当初の設計の概要に従って施行が進められている。 

 (3) 軟弱地盤が相当広域にわたって存在していることが認められる大浦湾側の埋め立てについては、既に述べたように本件地盤工事を実施しなければ所定の安全性を確保できないことが明らかになっていたというのである。

 安全性の確保と2号要件中の災害防止への配慮との間には、社会通念上関連性があると考えるのが合理的であることを考えると、本件指示の時点においては、大浦湾側の埋め立ては上記の要件に適合しているとはいえないことが強く推認できるといえる。

 のみならず、大浦湾側の埋め立てについては、埋め立て自体が不確定な状況になっているというのであるから、本件指示の時点では、2号要件適合性の判断の対象たるべき埋め立ての特定を欠く状態であったと考えざるを得ない。

 大浦湾側の埋め立てについては、それができるか否かは変更承認が得られるか否かによることは明らかである。変更承認の申請の審査においては、公有水面埋立法13条ノ2第2項において同法4条1項が準用されるので、申請に係る埋め立てについて2号要件適合性が改めて判断されなければならないと解される。

 本件指示の時点では変更承認の申請すらされていなかった。結局のところ、変更申請の対象となる「埋立」に含まれる大浦湾側の埋め立てが2号要件に適合するか否かは、本件指示の時点では不明であったと考えざるを得ない。

 (4) このように考えると、本件指示の時点では、大浦湾側の埋め立てが2号要件に適合すると判断した本件埋立承認が形式的には有効に存在しているとしても、その埋め立て自体が不確定な状況になったことにより、かかる判断の対象である埋め立ての設計の概要の変更(特に当初の設計の概要には全く含まれていなかった本件地盤工事を大浦湾側の大半において行うという大幅な変更)を余儀なくされ、その埋め立てを行うためには変更承認を受ける必要があることが明らかとなっているのであるから、本件埋立承認においてなされた2号要件適合性の判断は実質的には無意味なものになっていると考えざるを得ない。

 既に述べたとおり2号要件適合性は「埋立」について判断されるのであり、軟弱地盤の存在がある限り、本件護岸工事だけで施行できる(つまり変更承認を受けなければすることができない本件地盤工事なしの)埋め立てというものを観念することはできない。

 確かに、沖縄防衛局は、本件護岸工事を行うことができる法的地位を有するから、他の法令に違反しない限りは、当該工事を行うことができるとはいえるが、そのような法的地位があるというだけで本件規則による造礁さんご類の採捕禁止の適用除外や特別採捕許可を受けられると解すべき法的根拠は見当たらない。  上記で述べたように、本件埋立承認に係る大浦湾側の埋め立て自体が不確定な状況になっている以上、形式的にはともかく、実質的には、本件各申請の時点においても本件指示の時点においても、もはやかかる不確定な埋め立てが2号要件に適合していると評価することはできない。

 (5) そうすると、本件護岸工事に伴う本件さんご類の採捕が本件規則41条1項の「試験研究等」に該当するか否かの判断においては、通常の場合のように公有水面埋立法42条1項に基づく承認において埋め立てが2号要件に適合しているとされた判断が正しいことを所与の前提とすることはできない。

 なぜならば、本件のように埋め立ての承認を受けた後で当初の設計の概要に含まれていた工事の大半の実施が技術的に不可能な状況になったために埋め立てが不確定な状況になり、変更承認を受けない限りその埋め立てを施行することができないことが明らかになった場合には、埋め立ての承認自体は無効にもなっておらず、また、取り消されてもいないとしても、その承認においてなされた2号要件適合性の判断は実質的には無意味なものになっているというべきだからである。

 以上を踏まえると、その承認に係る設計の概要に含まれていた一部工事の実施に伴う造礁さんご類の採捕に特別採捕許可を与えることが、その埋め立てに伴う環境保全措置としてなされる「試験研究等」に該当するものとして水産資源の保護培養等を図るという漁業法等の目的にも沿うといえるためには、そもそも本件護岸工事が目的としているはずの埋め立てができるといえるか、かかる埋め立てが2号要件に適合しているかを、本件規則の目的に照らして実質的に検討する必要がある。

 (6) 以上を勘案すると、上記1のような事情の下で、変更承認の申請前になされた本件各申請の審査においては、本件さんご類の採捕が本件埋立承認を受けた埋め立てに伴う環境保全措置としての「試験研究等」に当たるか否かは、形式的にではなく実質的になされてこそ初めて漁業法等の趣旨、目的にかなうというべきであるから、大浦湾側の軟弱地盤によって生じた埋め立ての不確定性が変更承認によって解消され、その埋め立てが2号要件に適合すると判断される相当の蓋然性があるか否かによるといわざるを得ない。

 そうすると、埋め立てができる蓋然性、すなわち、当初の設計の概要の変更について公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2により承認される蓋然性があるかを考慮することは、本件さんご類の採捕が適法な埋め立てに伴う環境保全措置と評価できるか否かに直結する重要な考慮事項と考えられることになる。

 公有水面埋立法42条1項に基づく承認を受けた埋め立てに伴う環境保全措置としての採捕が本件規則41条1項の「試験研究等」に含まれるとする解釈は、かかる埋め立てが承認に従って施行できることを前提とした上で2号要件に適合するものと判断されていてこそ妥当なのである。

 本件のように、埋め立て自体が不確定な状況となり、埋め立てを施行するためには変更承認が必要であることが明らかな場合には、もはや本件埋立承認時になされた2号要件に適合するという判断の実質的な意味は失われたというべきである。形式的にかかる判断がなされた本件埋立承認が有効に存在していることだけを理由として、採捕が漁業法等の目的に沿う環境保全措置に該当すると判断することはできない。

 (7) 最後に、念のためにいうと、私も、宇賀裁判官の反対意見と同じく、本件変更申請が承認された場合には、特段の事情がない限り、本件各許可処分がされるべきことになると考える。 

 最高裁判所第三小法廷 

 裁判長裁判官 林道晴  

 裁判官 戸倉三郎

 裁判官 宮崎裕子

 裁判官 宇賀克也

 裁判官 長嶺安政

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