英国は、英語ではUK(ユナイテッドキングダム)と略される。欧州最大の都会・ロンドンのあるイングランドに、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドという自治領が合わさった連合王国だからだ。海外にも、スペイン最南端の要塞(ようさい)都市ジブラルタル、カリブ海に浮かぶケイマン諸島(租税回避地として有名)などの自治領が多数ある。サッカーのワールドカップには、イングランド、ウェールズなどが別々のチームで参加するのをご存じの方も多いだろう。
その英国が、今般の国民投票の結果、EU(ヨーロッパ連合)を離脱することになった。日本ではそれに伴う円高・株安が騒がれたが、この決断が連合王国の解体につながりかねないことにも注目すべきだ。
残留派が離脱派を大きく上回ったスコットランドでは、EU残留を目指してUK離脱(独立)を図る動きが再燃した。気候も気風も北欧に近く、イングランド流の市場経済重視型ではなく、北欧やドイツのような社会福祉重視型の政治を好む住民が多いのだ。
北アイルランドでも、これまで通行自由だったEU加盟のアイルランドとの国境を管理するのはあまりに煩雑で、やれば経済への打撃は避けられない。スペインに囲まれたジブラルタルも事情は同じで、その両方でEU残留の声が上がっている。
これらは、植民地が独立するのとは違う。スコットランドがイングランドと最終的に連合したのは、スチュアート朝のスコットランド王がイングランド王を兼ねた時点だった。清朝が中国を征服したことで、彼らの発祥の地である満州が中国に含まれる結果になったのとやや似ている。北アイルランドでもジブラルタルでも、住民投票で英国残留が選ばれてきた歴史がある。
イングランドの労働者階級を中核とするEU離脱賛成派の多くは、自国を解体したかったわけではなかろう。移民が少ない環境が欲しいとか、英国は大陸欧州とは違うぞとか、要するに個人的な思いに従っただけなのだ。
しかしそこには、連合王国内のイングランド以外の地域に対する心配りは欠けていた。これまで一緒にやってきたEU諸国に対する思いも劣後だった。要するに自分中心に過ぎたのだ。
片や日本では、参議院選挙の投票が迫っている。異論に耳をふさいで突っ走る現政権に対し、若干なりともけん制の一打が下るのか、それとも従来以上に全権委任のような結果となるのか。
特に基地問題を抱える沖縄にとっての影響は大きい。だが本土住民の多くは、本土の身代わりに戦場となり占領され基地化した沖縄について、きちんとした認識も心配りも欠けているのではないだろうか。
同じ彼らは東アジア諸国に対しても、上から目線で突っぱねるのが日本らしいなどと思っていたりしないか。要するに自分中心に過ぎないか。
それでも筆者は、上から目線でも卑屈でもない、自分中心でもなく誰とでも対等目線の、「万国津梁(しんりょう)」というウチナー発祥の精神が、日本の国是として浸透する未来をあきらめていない。だから沖縄の人にも、どうかまだ日本をあきらめないでほしいと、勝手ながら願っているのである。(日本総研主席研究員、地域エコノミスト)
(2016年7月4日付沖縄タイムス総合面から転載)
【藻谷浩介の着眼大局】(3)まずは投票に行くことから 沖縄の意思示す機会に