「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産への登録が26日、正式に決まった。国や県、地元自治体には、その名にふさわしい自然を守る取り組みが一層求められる。期待される観光との両立や、ロードキル(輪禍)への対策をいかに図るか。やんばるの森に広がる米軍北部訓練場での訓練や、返還跡地の環境汚染への指摘にどう対応するのか。主な課題をまとめた。

【ロードキル】

輪禍防止へ具体策必要

世界自然遺産登録地の緩衝地帯でドリフト走行する2台の乗用車=2021年5月、国頭村辺野喜ダム周辺

 島々の希少動物を脅かすのが、車にひかれ命を落とす「ロードキル」だ。沖縄島北部、西表島、鹿児島県の奄美大島、徳之島ではヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギなどがロードキルに遭っている。

 各地域では対策を講じている。やんばる地域では2004年から自然保護や道路管理など25の機関でつくる連絡会議を設置し、現状や対策を共有。西表島では県がヤマネコ用に道路進入抑制柵と道路下のアンダーパスを整備し、環境省は出没多発地点に移動式看板を置くなど注意喚起する。

 だが事故は防げていない。西表島では、団体バス周遊型からレンタカーを多用する個人ツアー型への観光形態の変化が要因と指摘される。

 林道が多いやんばるでは車で容易に入山できるため、登録後に車が増えて希少種のロードキルが増加する懸念もある。深夜のドリフト走行も確認されている。県は県議会6月定例会で対応を問われ「名護署や地元関係者と対策を進める」との考えを示した。実効性のある具体策が待ったなしだ。

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【入島制限】

観光産業との両立探る

 

 西表島では世界自然遺産登録によって観光客がさらに増加することが予想され「オーバーツーリズム」の解決が課題となっている。

 「沖縄・奄美」の登録勧告の際、IUCNは「特に西表島について観光客の収容能力と影響に関する評価が実施され、観光管理計画に統合されるまでは観光客の上限を設けるか、減少させるための措置を要請する」と求めている。

 県は観光客の入島上限数について地元と協議を進め、1日当たり1230人、年間約33万人とすることを決めた。しかしこれは目標値にとどまり、実効性については懸念が残る。

 同島を行政区域に持つ竹富町や環境省、フェリー会社を含めた官民6者は連携協定を結び、混雑の時期や時間帯が分かるカレンダーを作製して入島をコントロールする取り組みを進めるなど、観光産業と自然保護の両立に向け模索が続く。

【北部訓練場】

返還地 今も米軍廃棄物

米軍北部訓練場跡地で見つかった未使用の実弾(左端)と周囲に埋まっていた空包=1月、国頭村安田

 登録区域に隣接する米軍北部訓練場を巡り、ユネスコの諮問機関、国際自然保護連合(IUCN)の評価書では、訓練場周辺での米軍機の飛行訓練や、返還された跡地で見つかっている廃棄物に関する指摘はなされていない。だが、市民団体などからは自然への影響を懸念する声が根強い。

 沖縄防衛局は、跡地利用特措法に基づき、跡地を2017年12月に地権者へ引き渡す前に「全域を対象とした資料等調査を行い、土壌汚染調査や廃棄物処理等を実施した」と説明。「原則、返還前の廃棄物については防衛局で回収し、適切に処分している」とする。

 だが、跡地からは今なお薬きょう類や米軍のものとみられるごみが見つかっており、対応は後手に回っている。

 県は5月の登録勧告を受け「米軍由来の廃棄物がたびたび発見されていることは大変遺憾」と指摘し、北部訓練場跡地の廃棄物調査と速やかな撤去などを防衛局に要請している。

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希少種の保護 対策重要

吉田正人さん(筑波大大学院教授)

 

 奄美・沖縄の世界遺産リストへの登録を心から喜びたい。登録延期勧告を受けての再出発だったが、政府は北部訓練場跡地を国立公園に編入したことで、分断された候補地が一つにまとまり、自然遺産としての「完全性」が高まった。

 しかし、世界遺産リストへの登録は「ゴール」ではなく「スタート」にすぎない。今後は、世界遺産委員会において決議された勧告への対応も課題となる。

 西表島の観光客の総量規制やヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなど希少種・固有種のロードキル対策など、早急に取り組むべき課題は多い。保護すべき希少種が絶滅の危機となれば、危機遺産リストへの登録も検討される。

 国、県、自治体は危機遺産へ検討されないような対策が求められる。残る北部訓練場跡地やサンゴ礁も含んだ世界自然遺産へと拡張することを目指すべきだ。(世界遺産学)

北部訓練場 早期返還を

桜井国俊さん(沖縄大学名誉教授)

 

 やんばると西表島の世界自然遺産登録は、素晴らしい沖縄の自然が世界に認められた結果だ。同時に、地元の自治体や住民は、豊かな自然を後世に残すために大きな責務を背負った。 

 やんばるの森に隣接する米軍北部訓練場では、オスプレイの低空飛行訓練が繰り返されている。希少種・固有種を含む生態系を脅かす驚異となり、保全に逆行している。一体的に自然環境を守るためには、早期に北部訓練場を返還し、保全区域へ編入後に自然遺産へ再登録することが必要だ。

 県は、SACO合意以前の沖縄の歴史的背景から、北部訓練場の返還と自然遺産への編入を米国に粘り強く働きかけるべきだ。

 西表島も動植物を育む上で、過剰な観光客の規制が急務となる。

 地域社会に自発的な管理体制が生まれつつあるなか、登録後の活動が保全の鍵を握る。(環境学)

未来に残す使命 自覚を

 伊沢雅子琉球大名誉教授の話 4島は大陸や他の島との分断やつながりを繰り返す地史的変遷を経て、固有の生物が独自の適応、進化をしてきた。今後は国内外の訪問者が、無秩序に自然環境に立ち入ることも起こり得る。密猟や交通事故の増加、ごみによる環境汚染といった問題が懸念され、観光のガイドライン整備が必要だ。西表島は既に受け入れの限界を超えることが懸念されている。沖縄島は都市部が多く、北部の登録地以外でもペットの管理徹底などを含む外来種対策が急務だ。市民にも、遺産を未来に確実に残すという使命の自覚が求められる。

【連載】森どぅ宝~世界自然遺産へ~

(1)森に残る黒いタイヤ痕 やんばる悩ますドリフト走行

(2)オーバーツーリズムの解消に注文 西表島

(3)天然記念物ウサギを事故から守る 奄美の取り組み

(4)心配の種は尽きない「世界の宝」 徳之島

(5)米軍の訓練場 地中から廃棄物も 沖縄本島北部

【ルポ】「ピーピーピー」鳴りやまない金属探知機