銀髪の時代 「老い」を生きる

「自分が認知症になったら…」 支える夫も不安【銀髪の時代】

2017年1月21日 07:00

 【連載・銀髪の時代 「老い」を生きる】

妻芳江さんの化粧品。使う順序が分からなくなることもあるため、弘さんが番号を書いた

 「今日は閉まってるの?」

 「そうだなー。開いてると思ったが…」

 先月下旬。豊見城市内のカフェを訪れた糸満市の島袋弘さん(76)と妻の芳江さん(74)。2人でよく行く店は、あいにく休業日だった。少し残念そうな芳江さんの背中に手を当て、弘さんが「ちょっと散歩しよう」と誘った。

 「飛行機がたくさん来るねー」。那覇空港近くの海岸沿いを歩いていた芳江さんが足を止め、目を丸くして青い空を見上げる。隣で弘さんは「年末だからねー。帰省する人も多いはずよ」と笑顔で返した。

 この日、日中は気温が高く、水着を着た子どもたちが海辺で遊んでいた。その様子を見た芳江さんが「楽しそうね」とにっこり笑う。少し遠くには、ウインドサーフィンを楽しむ人々の姿。「あれは何? すごいわね!」。指を差して驚く芳江さんに弘さんは相づちを打ち、優しいまなざしを向けた。

 他人から見れば、どこにでもいる、穏やかな夫婦の姿だ。

 約5年前に認知症と診断された芳江さんの調子が良い日は、朝から2人でウオーキングに行き、思い出話に花を咲かせる。しかし、症状が進行しつつある芳江さんは、日常の中で次第にできないことも増えた。

 洗剤だと思い込み、練り歯磨きを入れて洗濯機を回したり、カミソリで歯を磨こうとしたり。化粧の順序が分からなくなることもあるため、弘さんが番号を書いた化粧品を、使う順に並べてあげるのが日課だ。

 何かを“決断”することも芳江さんには難しいことの一つになった。洋服を買いに出掛けても「色が悪い」「デザインが良くない」と決められない。途中で「なぜ買うのか」を忘れてしまうこともあり、食材や日用品なども弘さん1人で買いに行くことが多くなった。

 芳江さんが得意だった料理は、今は主に弘さんがその役目を担っている。だが結婚して40年以上、妻に任せてきたため、調味料を間違えたり、具が生煮えだったりする。包丁で指を切ることも。失敗はよくある。

 弘さんは「最初は具材の切り方も分からず、本やレシピ表を見ながらでもうまくいかなかった」と苦笑い。

 道具の使い方が分からなくなったり、何度言っても忘れてしまったりする妻に腹が立つときもある。そのたびに「そばで妻を支えられるのは自分だけ」と言い聞かせ、支えてきた。

 だが、胸にはいつも不安がある。「もし自分が認知症になったら、妻はどうなるのか」=文中仮名(「銀髪の時代」取材班・新垣卓也)

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