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「悔しさを糧に何としても銅メダルを取ってやる」屋比久翔平が豪快な投げ 圧巻の勝利にほえる

2021年8月4日 08:04

 残り10秒、飛びかかってきたゲラエイ(イラン)を豪快にマットへたたきつけ、屋比久翔平(ALSOK)がほえた。男子グレコローマンスタイル77キロ級の3位決定戦。勝利を告げる審判の笛が鳴り響くと拳を握り、天を仰いで絶叫した。「2回戦で負けて、チャンスが転がってきて。悔しさを糧に何としても銅メダルを取ってやるという気持ちで挑んだ」一戦で、堂々のテクニカルフォール勝ち。故郷沖縄に、県出身者として個人種目初の五輪メダルをもたらした。

男子グレコローマン77キロ級3位決定戦 イラン選手(手前)を投げる屋比久翔平=幕張メッセ

男子グレコローマン77キロ級で銅メダルを獲得し、メッセージが書かれた日の丸を掲げる屋比久翔平=幕張メッセ

レスリング男子グレコローマン77キロ級 屋比久翔平のプロフィル(似顔 中村 剛)

男子グレコローマン77キロ級3位決定戦 イラン選手(手前)を投げる屋比久翔平=幕張メッセ 男子グレコローマン77キロ級で銅メダルを獲得し、メッセージが書かれた日の丸を掲げる屋比久翔平=幕張メッセ レスリング男子グレコローマン77キロ級 屋比久翔平のプロフィル(似顔 中村 剛)

 勝利を決めたのは五輪に向けて磨き続けてきたグラウンドからのリフト技。2日の1、2回戦では不発だったが、この日は違った。

 第1ピリオドを終えて0-3と先行されたが「今大会、イラン勢はバテる傾向にある。後半に勝機がある」と焦りはなかった。ゲラエイのパッシブ(消極的姿勢)で1点返し、腹ばいの状態から試合が再開。逃れようと粘る相手に足を入れ替えてグラウンドから持ち上げ、豪快な投げ技でたたきつけた。5点が入って逆転し、流れが変わった。

 2019年世界選手権3位のゲラエイとの対戦成績は2戦2敗で、いずれも大差で敗れている。だからこそ「手の内は大体分かっていた」。屋比久がやり続けたのは、スタンドでは常に相手にプレッシャーを掛け続け、前に出ること。レスリングを始めた幼い頃から貫き続けた戦法だった。

 前に出るスタイルとリフト技は、父保さんの直伝だ。元世界選手権代表の保さんも、やり投げ選手だった母直美さんも、あと一歩のところで共に五輪には届かなかった。

 つかんだ五輪の切符は「おやじの夢」で、五輪のメダルは「自分の夢」。妻加奈子さんと、5日で1歳になる長男の紫琉ちゃんの存在も力になった。家族で歩み続けた日々は、五輪の表彰台につながった。

 屋比久の銅は、グレコローマンスタイルの中量級で長らくメダルが取れていなかった日本レスリング界にとって大きな価値がある。だが表彰式で、銅メダルを掛けた屋比久に笑顔はなかった。「やっぱり一番いい色じゃない。もっと頑張んなきゃいけないなって」

 視線の先にあるのは光り輝く金メダル。26歳、沖縄初の五輪メダリストレスラーが、3年後のパリでさらなる高みへ飛翔する。(我喜屋あかね)

■泥くささは父の直伝 前へ出るスタイルを貫く

 下半身への攻撃が禁止され、上半身の攻防のみで戦うレスリングのグレコローマンスタイル。投げ技やローリングなど派手な大技が飛び交うこの種目で、屋比久翔平は「泥くさく戦う」スタイルを信条とする。

 力で負けずに相手を押し続け、体力を消耗させ、ポイントを奪う。一見、地味な戦法だが「死にもの狂いになって、何とか1点をもぎ取ろうとしている姿を見てほしい」と揺るぎない誇りを持つ。

 元日本王者で、五輪出場を目指していた父保さんの教えが原点だ。細かな技術よりもまず大切なのは「とりあえず前に出る、圧をかける」こと。高校までは試合中、セコンドの保さんから常に「前に出ろ!」とのげきが飛んだ。広い会場でも、保さんの言葉は一番に屋比久の耳に飛び込んでくる。

 現在もスタイルの土台は変わらない。日体大入学後、技術に磨きがかかったが、リオデジャネイロ五輪の選考大会で負けてからは「前の出方や、相手へのプレッシャーのかけ方を試行錯誤した」。スクワットで最大200キロのバーベルを担ぎ上げられるようになり、上半身に力を伝えるため、強靱(きょうじん)な下半身もつくり上げた。

 体力には自信がある。圧をかけ続けられれば、終盤にスタミナを消耗した相手から大技でビッグポイントを奪うことができる。「頑張ってひたすら前に出て、そういうレスリングをすると勝てると気付いた」。レスリングを始めた頃からすり込まれた前進スタイルは、世界と対等に戦えるまで磨き抜かれた。

 3位決定戦で対戦したイラン選手とは過去2度対戦し、いずれも大差で敗れた相手。だがこの日は逆にテクニカルフォール勝ちと圧倒した。スタンドで押し負けず、体力で消耗した相手に2度も投げ技を決めた。「やるべきことは分かっていた」。愚直に磨き続けてきた屋比久の「勝利の方程式」は、五輪の銅メダルとなって実を結んだ。(我喜屋あかね)

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