[リポート’21 石垣発]

石垣島北部の旧牧草地で確認された「野生化牛」の群れ。耳標はしておらず子牛もいる=2019年10月(やえやまファーム提供)

 石垣島北部の旧牧草地周辺で本来は存在しないはずの「野生化牛」が生息している。十数年前に飼育牛とセットで土地が売買された際、新旧の所有者間で適切に引き継がれなかったことが原因とみられる。その後、持ち主が代わったのを機に2020年から独自に捕獲処分を開始。が、その矢先の今年2月に市民が運転する車との衝突事故が起きた。事態を重く見た市は県などと対応を協議。対策として市の有害鳥獣の対象に「野生化牛」を特例で追加し、“駆除”することを決めた。牛は野生化した時点で所有者が分からなくなり、えさの管理も不可能なため、売ったり食べたりできなくなる。(八重山支局・粟国祥輔)

 関係者によると、旧牧草地はもともとは伊原間牧野組合(当時)の所有で、2008年2月に「やえやまファーム」が買い取った。組合側は市の聞き取りに対して「牛を含めて売った」と主張。4年前に事業譲渡を受けた現会社側も当時の資料などから「捕獲できる範囲で土地と共に購入したのは事実」と認める。

 ただ、責任の所在を認めた上で付け加える。当時はすでに何らかの理由で牛が牧草地(約33ヘクタール)を超えて広大な市有地の山林に入り込んでいたとし、「捕まえるのは現実的に不可能だった」と理解を求める。

■「威嚇された」

 同社は土地を引き継いだ時点で問題を把握し、行政に相談していた。現在は生まれてきた全ての牛にはトレーサビリティー制度によって個体識別番号が付され、厳重に管理されている。「耳標」の数字を読み取れば、いつどの親から生まれたのかなどの情報がすぐに追跡できるようになっている。「つまり、野良の牛は自然界に1頭もいない前提になっている。行政もどう取り扱っていいか分からない案件だった」。同社の担当者は実情を話す。

 問題がなおざりにされる中、「野生化牛」に関する住民からの目撃情報は後を絶たず。次第に「草が食べられた」「畑を踏まれた」などの被害の訴えや、「前足で地面を蹴って威嚇された」との声も寄せられた。危機感を抱いた同社は「一度、同じ席に集まってください」と行政に懇願。県保健所などの同意を得て、薬殺処分することが決まった。

■止まらぬ勢い

 だが繁殖の勢いは止められなかった。同社によると、20年1月時点の生息予測数は約60頭。同年2月から1年間に20頭超処分したが、減少していないとみる。そんな中、「野生化牛」が山を越える事態が起きた。

 島北部の県道で今年2月の未明、市民の運転する車が「野生化牛」と衝突。牛は即死し、運転手は命に別条はなかったが、車が大破した。

 「繁殖のスピードに処理が追い付かない中で大きな事故が起きた。もう一企業だけで解決するのは限界」。市も早急に対策を講じる必要があると判断し、翌3月に県や国など関係機関を集めた会議で問題を共有。引き続き5月には、具体的な解決策を検討した。

 そこで導き出されたのが市の有害鳥獣として特例で駆除する方法。対象鳥獣になり得るのは本来、農作物被害などがある場合だが、前例があった。国頭村で豚が逃げて繁殖した際、鳥獣に追加して駆除していた。

 市は6月14日付で「野生化牛」を追加した「市鳥獣被害防止計画」について特例で知事の同意を得た。ただ、新たな課題もある。駆除には繁殖スピードも考慮して、猟友会の協力を得てより殺傷能力の高いライフル銃を使うが、射程が3~4キロと長い。市農政経済課の担当者は「周辺には集落や海もある。猟友会にも経験がない。安全第一にしっかりと計画を立てて実施したい」と話した。