広島と長崎へ原子爆弾が投下されてから76年。広島はきょう6日、長崎は9日に「原爆の日」を迎える。

 被爆者の悲願だった核兵器禁止条約が発効してから初めての原爆忌である。

 あの日、強烈な熱線や爆風、放射線で町は一瞬にして焼け野原となった。1945年末までに約20万人もの尊い命が奪われた。

 生き残った被爆者たちは放射線による健康被害に苦しみ、症状のない人もいつ病気になるか分からないという不安と闘ってきた。

 その中で自身の過酷な体験を伝え、核兵器の非人道性を訴えてきた被爆者たちの粘り強い努力が実を結んだのが核兵器禁止条約だ。

 前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記されており、今年1月に発効した。

 しかし唯一の戦争被爆国である日本は、米国の「核の傘」に頼り同盟関係を重視する立場から批准していない。

 こうした日本政府の姿勢は被爆者だけでなく「核なき世界」の実現を求める国際世論も失望させている。

 広島市の松井一実市長はきょう開かれる平和記念式典の平和宣言で、各国に条約への支持と「核抑止論」からの脱却を訴える。

 日本政府には条約への批准と来年1月に開かれる予定の第1回締約国会議への参加を求める。過ちが繰り返されてはならないとする被爆地の使命感による訴えだ。

 式典に参列する菅義偉首相はどう応えるのか。世界の目が注がれている。

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 ストックホルム国際平和研究所の推計によると、今年1月時点の世界の核弾頭数は9カ国で計1万3080発にも及ぶ。核廃絶への道のりは極めて険しい。

 軍縮を進めない核保有国に対する非保有国の不満は強く、核兵器禁止条約を生む背景にもなった。

 日本は核廃絶というゴールは条約と共有するがアプローチが異なるとの立場で、保有国と非保有国の「橋渡し役」を担う考えを示している。

 だが、条約に背を向けてその役割を果たせるのか。そもそも「橋渡し役」として何をしているかが見えてこない。

 日本世論調査会の世論調査では、条約に「参加すべきだ」と答えた人は71%に上った。締約国会議へのオブザーバー参加にも85%が「出席するべきだ」と考えている。

 被爆国としての責務を積極的に果たすよう求めているのだ。日本は会議への参加を決めるべきである。

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 広島と長崎での被爆者は3月末時点で12万7755人。平均年齢は83・94歳となった。

 昨年来のコロナ禍においても「今、語らなければ」とオンラインなどを通して体験を語る被爆者の思いは切実だ。

 きょうの「原爆の日」は平和の祭典である東京五輪のさなかに迎える。広島市や被爆者団体は選手らへの黙とうの呼び掛けを求めていたが、国際オリンピック委員会はその対応をしない方針だという。

 戦争被爆国で五輪を開く意味を「原爆の日」に共に考えたかった。残念でならない。