核戦争のリスクを低減させるために、唯一の戦争被爆国である日本はこの書簡を真摯(しんし)に受け止め、核軍縮へ向けた役割を果たすべきだ。

 ペリー元米国防長官や全米科学者連盟などが、バイデン米政権が進める「核の先制不使用」を軸とした政策の採用に反対しないよう求める公開書簡を菅義偉首相に送った。

 「使える核」の開発を進め、核軍拡に動いたトランプ前政権の政策から、バイデン政権は「核兵器の役割低減」を目指している。

 核保有国同士の対立解消の糸口が見えない中、核兵器使用の敷居を高くする先制不使用に、米国が、かじを切ることには重要な意義がある。

 書簡は「核廃絶に向けた小さな、しかし重要な一歩を、核攻撃を受けた唯一の国の日本が阻止することになれば悲劇だ」と賛同を促した。強くくぎを刺したのには、理由がある。「核なき世界」を掲げたオバマ政権が2016年に先制不使用を検討した際、日本が強く反対したからだ。

 当時、日本政府からは「米国の核先制不使用の宣言は、同盟国を守る米国の決意について、中国や北朝鮮に誤ったメッセージを送る」など反対の意向が伝えられていた。

 安倍政権は「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠」と核依存を強めていた。

 核廃絶を主張しながら、一方で、「核の傘」に依存する日本の二重基準(ダブルスタンダード)が、国内外の厳しい批判にさらされたのは、当然である。

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 菅首相は広島・長崎の「原爆の日」の式典あいさつで「唯一の戦争被爆国」として核廃絶を目指すとしたが、核兵器禁止条約には触れなかった。

 被爆者が自身の過酷な体験を伝え、核兵器の非人道性を訴え、実を結んだのが核兵器禁止条約だ。

 松井一実広島市長は、同条約発効から初めてとなる平和宣言で、日本政府に「一刻も早く締約国となる」よう求め、田上富久長崎市長も「世界の共通ルールに」と訴えた。だが、菅首相は条約参加を否定するだけでなく、オブザーバー参加にすら消極的だ。

 菅首相は、広島で「『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていく」とするくだりなど1ページ分を読み飛ばした。被爆者への配慮を欠くばかりか、核廃絶を国際社会に訴え掛ける機会を失ったことは、残念というほかない。

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 米国と中国の覇権争いが激化し、ロシアも核戦力を増強し核軍縮への逆風は続く。ただ、バイデン政権になって、米ロ首脳は「核戦争に勝者はない」との原則の下、新戦略兵器削減条約(新START)の5年後の失効を見据え、戦略的対話も進める。

 米国が核を先制使用しない選択に踏み切れば他の保有国に同調を迫り、核戦争のリスクを減らすことができる。

 日本政府は、米政権の核の先制不使用を支持するとともに、核兵器禁止条約の締結国会議へオブザーバー参加すべきである。

 今度こそ、積極的に動くべきだ。