「バスは来るのかね。どこにも行けなくて不便さ」。バス停で居合わせた81歳の男性がこぼした。3カ月前に自損事故を起こし、運転免許証を自主返納したという
▼ブレーキとアクセルを踏み間違えたといい「年を取ると大変」と苦笑い。病院へ行くためになかなか来ないバスを待ちながら、移動の不自由さを口にする表情は不安そうだった
▼警察庁がまとめた2015年の75歳以上のドライバーによる死亡事故は458件で、運転免許保有者10万人当たりの事故件数は75歳未満の2倍以上だった(17日付本紙)。要因は「操作の誤り」が最も多く、「前方不注意」「判断の誤り」と続く
▼国は認知機能検査を強化する改正法の施行や有識者会議で防止策を検討するなど対応を急いでいる。ただ、運転のリスクが高まる体の衰えの把握や安全教育、自主返納の促進策など課題は多岐にわたり、実効性が問われてくる
▼暮らしに直結するだけに生活者の視点と安全策の両輪でなくてはならない。代替の「生活の足」の確保や充実に加え、安全教育といった全運転者の意識改革も不可欠だろう
▼「超高齢社会」はどの世代の課題でもあり、高齢運転者の事故は決して人ごとではない。官民を中心とした社会インフラ整備を含む防止策はもちろんだが、きめ細かな支援策には地域の幅広い知恵も必要だ。(赤嶺由紀子)