「人間は地位が高くなるほど、足もとが滑りやすくなる」。古代ローマの歴史家で政治家でもあったタキトゥスが自著「年代記」に残した警句である

▼地位が高くなれば、権力も強まるが、何をしても大丈夫だと自身の力を過信した時、思わぬ落とし穴にはまる。地位が高くなれば、しっかりわきを締め、足もとを固めることが肝要だという意味である

▼先の警句に従えば、この方はどうだったのだろうか。県の安慶田光男副知事が2015年の教員採用試験で特定の複数の受験者を合格させるよう、県教育委員会に依頼していた疑いが表面化した

▼本紙の取材によると、県教委の職員が副知事室に呼び出され、受験者の氏名や受験番号が書かれたメモを直接渡されたほか、依頼の電話があったという。県教委は「不正行為に当たる」として拒否したとの証言がある

▼対する副知事は疑惑を全面否定し、「僕の揚げ足を取って、蹴落とそうという人の謀略だろう」と反論する。疑惑が事実なら辞職することを明言しており、そうなれば翁長県政の屋台骨が揺らぐ

▼証言通り、足もとを滑らし、一線を越えてしまったのか。あるいは、本人が主張するように「揚げ足」を取られたのか。いずれにしろ真実は一つである。ここは、県教委と副知事の双方に丁寧に説明してもらうしかない。(稲嶺幸弘)