ディズニー映画アラジンの主題歌「ホール・ニュー・ワールド」を沖縄方言で歌うYouTube動画が人気だ。再生回数は166万回で、今も伸び続けている。沖縄で活躍するアーティストたちが採算度外視で制作しており、クオリティーの高さを評価するコメントが世界中から届く。だが、始めてから1年半は登録者数が900人と伸び悩んでいたという。苦境を脱した策は3つあった

160万回以上も再生しているナナイロノートのホール・ニュー・ワールドの沖縄方言バージョン

音楽と映像のクオリティーに目が釘付け

 澄んだ三線の音色が流れ、沖縄の海を思わせる青色の伝統的な陶器「やちむん(焼き物)」の酒器が映し出されて動画が始まる。ダブルネック三線や打楽器のカホン、ギタレレが曲を奏でる中、男女のボーカルが明るくおしゃれなカフェの中を歩きながら、ホール・ニュー・ワールドを歌う。カットなしのカメラワークで、店内の花ブロックや、窓の外のまぶしい光景も入り、沖縄らしい雰囲気を目でも楽しめる。

 沖縄方言でウケを狙った動画と思っていたら、音楽と映像の想像を超えるクオリティーの高さに目が釘付けになってしまった。

沖縄のプロたちが本気で作るミュージックビデオ

 動画を作ったのは、沖縄で活躍するアーティストチーム「nanaironote(ナナイロノート)」。リーダーを務める作曲家のHOMARE(ホマレ)さんは「すごいでしょ」と笑う。

ナナイロノートを運営するギタリストで作曲家のHOMAREさん

「本気でミュージックビデオを作っています」。出演者もカメラマンもプロをそろえ、楽曲の収録は本格的な機材がそろうスタジオで半日かけるという。

 「独自の芸能文化を築いてきた沖縄は、多彩な才能を持った人たちがいっぱいいる。沖縄で頑張るアーティストたちと組めばハイクオリティーな動画ができるし、その動画を世界に発信すればアーティストの仕事も増えると思った」と制作の意図を説明した。

 プロの集団が本気で作る動画は「必ずバズる」と自信を持って、2018年に配信をスタート。だが、1年半続けても再生回数は思うように伸びず、登録者数は900人どまりだった。

 ビリー・ジョエルやエド・シーラン、ヴァネッサ・カールトンなどのハイレベルな洋楽を歌唱力豊かな本業の歌手が、原曲のままの英語で披露する。聞き応えも見応えも充分あるはずなのに。ホマレさんは「なぜ再生回数が増えないのか分からず、ずっと悩んでいた」。

もがきながらたどり着いた沖縄方言

 ナナイロノートの音楽はスタジオでの生演奏で収録しており、撮影だけでなく、音楽もこだわり抜いている。音楽の収録だけで、半日がかりなることもあるという。「これだけ労力を掛けているのに鳴かず飛ばずで、心が折れそうになったこともある。メンバーからは『いつバズるの』って、ずっと聞かれて心苦しかった」という。

 動画制作は、企画立案から、出演者やロケ地の選定と手配、撮影と音楽収録まで1カ月はかかり、連発はできない。ホマレさんは、配信した動画のデータ分析に力を入れた。視聴者の年齢層や地域といった属性、視聴された時間、視聴する前のページなど、数字を見つめる日々。すると、沖縄の伝統楽器の三線や三板(サンバ、カスタネットのようなもの)を使ったソロパートでの視聴が多いことが分かってきた。「もしかして、みんな沖縄感を求めている?」。なんとなくニーズが見えかけてくる。たが、まだ具体的なイメージは出てこない。

 さらに動画配信を続ける中で、あるとき急にひらめいた。沖縄方言を取り入れよう!「沖縄感が求められているなら、いっそのこと沖縄の方言で歌ってしまえ」。沖縄の方言は、ウチナーグチ(沖縄語)と呼ばれ、一つの言語。ユネスコは消滅の危機にある言語として認定している。ホマレさんは「沖縄独自の言語として認められたウチナーグチは、最も沖縄らしさを表現できる」と話した。