直接証拠がなくても、間接証拠の積み重ねで暴力団トップの関与を認定した異例の判断だ。

 一般市民を襲撃した四つの事件で、殺人などの罪に問われた特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)の総裁、野村悟被告に福岡地裁が死刑判決を言い渡した。検察側証人の信用性を認めて「首謀者として関与し責任は誠に重大だ」と、4事件全てで関与を認定したのだ。

 1998年の元漁協組合長射殺や2012年の元福岡県警警部銃撃など4事件について、実行役の組員らに犯行を指示したとされ、殺人と組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた。

 直接的な証拠がない中、裁判所がトップの関与をどう判断するかが注目されていた。

 検察側はこれまで62回の公判で、元組員らの証言、状況証拠を積み重ねてきた。工藤会の上意下達の組織性が強固であることを踏まえ、「組織力や指揮命令系統を利用した」と断じた。

 死刑適用の可否を判断する「永山基準」に沿えば、1人殺害での死刑判決は異例だ。 だが、判決は巨額の利益を継続的に得るために市民を殺害した射殺事件は、利欲性が高く、暴力団が計画的に実行している点で、極刑を選択するべきだとした。

 ただ、死刑という量刑が妥当かどうか議論を呼ぶのは間違いない。死刑廃止論もあるだけに、なおさらだ。

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 暴力を後ろ盾に一般市民を脅し、利益を得る行為は断じて許されない。

 03年に、北九州市で暴力団追放運動のリーダーだった経営者の店舗に、工藤会系組員が手りゅう弾を投げ込み、従業員ら11人が負傷する事件が起きた。飲食店関係者らは巡回を強化。12年には、暴力団組員の立ち入りを禁止する「標章制度」が導入された。

 不当な要求を断る店の従業員が切りつけられたり、ビルが放火されたりする事件が相次いだが、市民の暴力団追放運動は粘り強く続いた。工藤会は、暴力団対策法に基づく「特定危険指定暴力団」に全国で唯一指定されている。 

 暴力団対策法や全国で成立した暴力団排除条例、地域の運動の広がりによって、関係者の経済活動が制限され、資金源が押さえられてきた。

 指定暴力団のトップに死刑判決が言い渡されたのは、全国初のケースとみられる。警察が狙う工藤会壊滅だけでなく、全国の暴力団捜査への追い風になるものだ。

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 警察庁のまとめによると、2020年末時点の全国の暴力団構成員や準構成員数は、前年比2300人減の2万5900人で16年連続して減少。工藤会もピーク時の730人から220人に減っているものの、解散の動きはない。

 暴力団が地下に潜り、法の網をくぐる活動を強める可能性もある。

 今回の死刑判決に、工藤会側が報復行動に出る動きへの警戒も欠かせない。警察には、市民に危険が及ばないよう警備を強化してもらいたい。