ヤングケアラー

「毎日精いっぱい。全然笑えない」 ヤングケアラー、家族を背負う少女の日常

2021年9月4日 08:00

[ヤングケアラー 介護する子たち](1)

働きながら家事や家族の介護を担うスミレさん。幼少期から続けるダンスがいきがいだ=8月、沖縄本島中部

大好きな韓国のポピュラー音楽K-POPを聴きながら、食事を取るスミレさん(提供)

働きながら家事や家族の介護を担うスミレさん。幼少期から続けるダンスがいきがいだ=8月、沖縄本島中部 大好きな韓国のポピュラー音楽K-POPを聴きながら、食事を取るスミレさん(提供)

 「鶏肉があれば、チキン南蛮とカレーが作れる」「タマネギも必要だな」。8月のある日、沖縄本島中部にあるなじみのスーパーにやって来たスミレさん(16)=仮名=は、メニューを考えながら、買い物かごをいっぱいにした。母と祖母との3人家族で、2週間分の食費は5千円以内。会計を済ませると、強い日差しが降り注ぐ中、両手に大量の食料を抱え、約20分かけて歩いて帰宅した。

■小さな肩にのしかかる負担

 母が好きなお菓子は買ったけれど、自分が欲しかったタピオカは「お金が足りなかった」から、我慢した。同居する祖母にはサツマイモを。「きんぴらに入れたらおいしいって喜ぶから」。家計を管理するスミレさんが優先するのは母と祖母だ。片道約200円のバス代も「もったいないから」と往復を歩く。夏場は特に汗だくだ。両腕には買い物袋が食い込んだ跡が数日残る。

 50代の母は、スミレさんが幼い頃からパニック障害を患う。毎日のように動悸(どうき)が起きるため、薬を飲んで寝込むことが多い。料理はほぼできない。掃除や洗濯は3日に1回程度、元気な時にまとめてやる。

 病で働けない母に代わって、スミレさんが飲食店でアルバイトして1年半。幼稚園生の頃から習うダンスと家事の時間を除いて、週4日、1日約6時間働く。手取りは月4万~6万円。大半が家族3人の食費や携帯電話代、交通費に消える。「生活保護費はあっても自由になるお金はないし、とにかくきつい」。小さな肩にのしかかる負担は大きい。

■諦めた進学

 パニック障害を抱えるスミレさん(16)=仮名=の母。スミレさんにとって働く母の姿は小学校入学前の記憶にかすかに残るだけで、仕事を失って10年以上になる。家計を支えていた親族が病に倒れてからは、暮らしに全く余裕がなくなった。母にはギャンブル依存症もあり、電気や水道といったライフラインが止まるほど、生活費を使い込んでしまうこともあった。スミレさんが中学2年生だった3年前から生活保護を受けている。高校進学は考えられなかった。「お金がないから通信制も無理。働かないといけないし、家のこともしないといけない」。早々に諦めた。

 アルバイトに向かうため、毎朝6時に何度も鳴るようにセットした目覚まし時計で、重い体と心を起こす。家を出るまでの約1時間、歯磨きやメークをしながら洗濯物を仕分け、デイサービスに通う祖母の身支度を手伝う。家事にアルバイト、介護が重なり、心身は悲鳴を上げている。7時30分ごろ、出勤のバスに乗り込むと、時々涙がこぼれる。「毎日精いっぱい。全然笑えない」

■敬語で頼みごとする母

 仕事中は気を張っているが、終業してスマートフォンに目をやると、またどんよりした気持ちに襲われる。原因は、母からのLINEメッセージ。

 〈お仕事お疲れさまです。悪いけどピザポテトが食べたくて仕方ありません。買ってきてもらっていいですか?〉

 頼み事は決まって敬語。所持金を確認し、家計を考えながら、コンビニに向かう。「本当に嫌。だけど、買ってしまう」。無視できない自分がもどかしい。

 帰りたくなくて、当てもなく散歩することもある。バス停から自宅まで徒歩10分の距離を、30分かける。

 憂鬱(ゆううつ)な気持ちを癒やすのは、大好きな韓国のポピュラー音楽K-POP。中学生の時、ダンス教室の先輩に勧められ、「一気にはまった」。お気に入りは、男性7人組アイドルグループ「BTS」。メンバー自身が抱える悩みや苦しみ、人生観を表現した楽曲に魅力を感じている。

 「考え始めると切りがなくなる性格だけど、音楽を聴いていると、考え事をしなくなるからいい」と話す。K-POPはなくてはならない。イヤホンとスマートフォンは片時も手放さない。入浴時は保存袋に入れて、就寝時も眠りに付くまで手元に置き、心を落ち着かせている。(学芸部・嘉数よしの)

   ◇    ◇

 病気や障がいのある家族の介護、きょうだいの世話などを担う子ども「ヤングケアラー」。年齢や成長に見合わない責任を負い、進学や就職を諦めるケースもあり、支援態勢の構築が求められている。当事者たちはどんな現状にあるのか。声を聞いた。

[ことば]ヤングケアラー 厚生労働省などによると、法的な定義はないが、病気や障がいのある家族のために、本来大人が担うと想定される家事や家族の世話などを日常的に行っている18歳未満の子どもを指す。国が2020年度に実施した初の実態調査では公立中学2年生の5・7%、公立の全日制高校2年生の4・1%が世話をしている家族が「いる」と回答。1学級に1~2人の当事者がいる計算となる。

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