九州南端から台湾近海まで連なる南西諸島の島々で、自衛隊の駐屯地が相次いで建設され、部隊が配備されている。鹿児島県西之表市・馬毛島(まげしま)でも、防衛省が新たな自衛隊基地の建設計画を進めようとしている。アメリカ海軍の空母艦載機による「陸上離着陸訓練(FCLP)」や自衛隊の訓練を行うための基地だが、全体の構想を見ると、ひとつの島をそっくり丸ごと「軍事要塞」にするという異様なものだ。そんな基地はこれまで日本では例がない。騒音や環境破壊はもちろんだが、本当に完成すれば、かつてない「日米一体化」の軍事行動が予想される。現地では不安の声が広がっている。

民主党が政権にあった2011年、東日本大震災から3か月後の6月、「日米安保協議委員会」がアメリカで開催される。日米両国の外務・防衛両首脳が出席する、安全保障政策の閣僚級協議で「2+2」(ツープラスツー)と呼ばれる。この会議で発表された文書が、馬毛島周辺の自治体に衝撃を与えた。文書にはこうあった。

「日本政府は、新たな自衛隊の施設のため、馬毛島が検討対象となる旨地元に説明することとしている」

馬毛島(奥間政則さん撮影)

続く文章には、その「施設」が、「通常の訓練のため使用され、併せて米軍の空母艦載機離発着訓練の恒久的な施設として使用されることになる」と明記されていた。つまりアメリカ軍機が定期的にやってきて訓練を行うというのである。

島の軍事基地化構想

馬毛島を米軍機の訓練用の基地にする案は、それよりも4年ほど前から報道され、島周辺の西之表市、中種子町、南種子町(いずれも種子島)、屋久島町(屋久島)の1市3町は反対の声を上げていた。防衛省にも申し入れたが、同省は馬毛島への移転の話は一切ない、と否定していた。にもかかわらず、いわば頭越しにアメリカ政府と勝手に約束してしまったのだ。驚くべき地元無視である。馬毛島の属する西之表市の長野力市長は、地元自治体の反対運動の先頭に立ち、2年後の市長選では圧倒的な支持を集め、3選を果たした。「騒音や事故による影響がある。交付金も、訓練移転で発生する産業も一時的」と言って反対を貫いた。

一方、馬毛島の大部分の土地を所有していたタストン・エアポートの立石勲社長(故人)は、日米合意で馬毛島が名指しされる前から、島の軍事基地化の構想を持っていたようだ。当時、「サンデー毎日」(2010年3月28日号)の取材にこう述べている。

「島には“3万人の街”を作ることが可能ですし、軍港向きの港も兼ね備えています。米軍の街、米国が自由に使える島にすればいい。今後、政府から馬毛島を普天間の移設先のひとつにしたいという提案があれば、国難の折ですからもちろん歓迎します。海兵隊のうってつけの住宅用地がありますし、上水道のための水脈も確保しています」

そのうえで、インド洋の環礁ディエゴガルシア島になぞらえ、「馬毛島を“第二のディエゴガルシア”にしたい」とぶち上げた。イギリス領チャゴス諸島のディエゴガルシア島は、アメリカがイギリスから借り受け、島民を追い出して丸ごと海軍基地にしている島だ。

ただ、立石氏にとって滑走路建設の造成工事は莫大な負担だったらしい。2011年には法人税法違反で有罪判決を受けている。雑誌「WEDGE」(同年8月号)では「もちろん国には協力したいのですが、これまでに島に投資してきた金額に見合った条件を提示して欲しい。私は賃貸でなければ応じられない」と条件を示している。

以後、防衛省と立石氏側との交渉は難航し、価格交渉でなかなか折り合わなかったとされるが、2019年、最終的に国が約160億円で買い取ることで合意が成立する。日米合意から8年後のことだった。今年6月、立石氏は老衰で死去した。

タッチアンドゴー

この間、地元に対する政府の説明はどうだったのか。

「2+2」での日米合意の翌月、2011年7月に防衛省から地元への最初の説明が行われる。その時の資料が西之表市のホームページに公開されているが、馬毛島をどのように使うのか、については①大規模災害における展開・活動②離島侵攻対処訓練――を挙げ、それに続くページに「FCLPとは」と表題があり、こう書かれている。

「空母出港前に必要な訓練であり、空母艦載機が空母に安全に着陸できるようパイロットの練度を維持するため、飛行場の滑走路の一部を空母に見立てて実施する着陸訓練。FCLPのうち、夜間に実施される訓練をNLP(Night Landing Practice:夜間着陸訓練)という」

間違いとはいえないが、重要な事がこれには書かれていない。海軍航空隊の航空機は、地上の飛行場を発着する空軍機とは違い、洋上に浮かぶ空母の狭い飛行甲板に着艦しなくてはならない。着艦後何らかのトラブルが起きた場合、すぐにエンジンを全開させて再発艦を試みる必要がある。そのために出港前、あらかじめ陸上の航空基地でそのための訓練を行う。「タッチアンドゴー」と呼ばれる訓練で、いったん滑走路に着地してから、すぐにエンジンをふかして飛び上がり、それを延々と繰り返す。

なかでもタッチアンドゴーを深夜に行うNLP(夜間着陸訓練)の騒音は、並大抵ではない。神奈川県・横須賀基地を母港とする、アメリカ海軍第7艦隊の航空隊がかつて駐留していた米海軍厚木基地(神奈川県綾瀬、大和両市)でも、周辺住民が何度も訴訟を起こした。判決は、受忍限度を超える、として国に賠償金の支払いを命じている。

厚木基地は普天間飛行場と同様、住宅密集地の中にある。あまりに騒音がひどいため、1991年からは周囲に有人島のない小笠原諸島・硫黄島の自衛隊基地で実施されていた。だが、在日米軍再編の一環で、2017~2018年、艦載機部隊が厚木から山口県岩国市の岩国基地に移転。硫黄島までは約1400キロの距離があり、中間に滑走路もないため、米軍側から代替地を強く求められていた。岩国から馬毛島までなら3分の1以下の約400キロで、緊急時に降りられる飛行場もその間にあるというわけだ。

訓練施設配置のイメージ(防衛省)

滑走路2本 島を覆いつくす施設

上の図は、2011年に防衛省が資料で示した「訓練施設配置のイメージ」。滑走路は1本で、施設は島全体に広がるようには見えない。昨年夏、同省は初めて「施設配置案」を提示。それによると、滑走路は2本になり、全島をほぼ隙間なく関連施設が覆いつくす形になっている。紛れもない「全島基地化」計画であり、立石氏がかつて描いた構想そのままに、まさに「第二のディエゴガルシア」を造ろうとしているのだ。

馬毛島における施設配置案

また昨年秋に鹿児島県知事に説明した際の資料では、自衛隊の訓練について、12通りの訓練を列記。そこにあるのは、最新鋭ステルス戦闘機F35Bの短距離離陸・垂直着陸を含めた離着陸訓練、V22オスプレイなどを利用した部隊の展開訓練、空挺部隊の降下訓練、海では離島での戦闘を想定し、ホバークラフト艇を使用しての着上陸訓練・・・など。

さらに防衛省は今年8月7日、島の東岸部に建設する計画の港湾施設のイメージ図を公表した。同省の説明は「人員、燃料、資機材等の海上輸送、官邸の停泊及び補給等を目的とした係留施設等を設置します」としているが、そこには海上自衛隊の護衛艦「いずも」「かが」(1万9950トン)の入港が可能になるとみられている。両艦は事実上の空母に改修される予定で、ステルス戦闘機F35Bが搭載される。

陸海空自衛隊と米軍の機能が集結した、国内に例のない軍事要塞が建設されようとしている。

島の東岸部に建設する計画の港湾施設のイメージ図

▽目次

1.島々を日米同盟の「盾」にする要塞化計画 鹿児島県・馬毛島で何が起きているのか
2.一社長の軍事化計画、現実に 160億円で買い取られた島「第2のディエゴガルシア」へ
3.米軍訓練基地を新設「沖縄の復帰後、馬毛島が初めて」 南の果ての小島で権力が目論むこと