ヤングケアラー

「ショウタがいないと、ママ生きていけない」 病の母支え 睡眠削り小6まで続いた深夜マッサージ

2021年9月8日 07:50

[ヤングケアラー 介護する子たち](4)

片付いた自室で漫画を読むショウタさん。高校生になった今は友達を招くこともあり「掃除は苦手だけど、自分の趣味を集めて居心地良くしている」と話す=8月、沖縄本島南部の公営住宅

ショウタさんが登校前に切りそろえたナス炒めの具材。包丁が握れない母の昼食や、帰宅後に作る夕食の下準備が出掛けるまでの日課の一つだ=3日、沖縄本島南部の公営住宅

片付いた自室で漫画を読むショウタさん。高校生になった今は友達を招くこともあり「掃除は苦手だけど、自分の趣味を集めて居心地良くしている」と話す=8月、沖縄本島南部の公営住宅 ショウタさんが登校前に切りそろえたナス炒めの具材。包丁が握れない母の昼食や、帰宅後に作る夕食の下準備が出掛けるまでの日課の一つだ=3日、沖縄本島南部の公営住宅

 几帳面(きちょうめん)に棚に並んだ漫画本やフィギュアに、一目で探せるよう収納された洋服、かばん、帽子。お気に入りを集めた整然とした空間で、高校3年のショウタさん(17)=仮名=は本をめくり、ゲームをしてくつろぐ。「自分の部屋を持てたのは中2の途中から。今は親の体調が安定してきて、夜、起こされる回数も減ったし、めちゃくちゃ楽になった」とうなずく。

 沖縄本島南部の公営住宅に、重い神経痛などを抱える母のメイカさん(55)=仮名=と入居したのは小学校入学の年だ。幼い心を翻弄(ほんろう)した日々がようやく落ち着いてきたことを、穏やかな一人の時間が物語っている。

■小さな大人

 ショウタさんは父の故郷の関東地方で、中国籍の母から生まれた。両親は母がショウタさんを妊娠中に不仲で離婚。母子ともに日本国籍を取得し沖縄に移り住んだのは、先に沖縄で家庭を築いていた母の妹である叔母(52)を頼ってのことだ。ショウタさんが4歳の時だった。

 関東の縫製工場で働いていた母は、沖縄でも同じような仕事で生計を立てようとした矢先、頸部脊柱管狭窄(きょうさく)症や頸椎(けいつい)症性神経根症を患った。首から背中、右手にかけて激しい痛みやしびれが生じる病気で、手術を受けたが症状は強く残った。働き続けることは難しく、2008年から生活保護を受けている。

 「うちは他の家と違って不自由。小学校低学年の頃にはそんな現実に気付いていた」。ショウタさんは母とのこれまでを淡々と口にする。「たいてい、体のどこかが痛くて寝込む親の姿と、お金がないという思い出ばかり」の毎日で、空気を読み、他人に頼らない“小さな大人”になっていった。

■背伸びして料理

 手に力が入らないため、重い物が持てず包丁も握れない。長年の神経痛に苦しむ母のメイカさん(55)=仮名=をショウタさん(17)=仮名=が支えてきた。

 一人で料理を始めたと記憶するのは小学1年生のころ。「目玉焼きだったかな」。まだ体が小さく、背伸びをしないとフライパンの中身が見えなかった。「子どもの料理だから、そんなにおいしいはずはないのに、親は何を作っても『全部おいしい、最高』と喜んでくれて。それはやっぱりうれしかった」と目尻を下げた。

 やがてショウタさんが朝食を作り、野菜や肉を切るなど母の昼食の下準備をして登校するのが日常になった。学校でも夕食のメニューが頭に浮かび、帰宅すると支度に取り掛かった。洗濯物を干す、掃除機をかける、母の買い物に付き添って荷物を持つ、風呂場で母の背中を洗う。料理の他にも、ショウタさんには数々の役割があった。

 母はしばしば、ショウタさんの「だるそうな顔」や、帰宅が約束より数分遅いといった「ささいなこと」で声を荒らげ、しばらくの時間、正座で反省するよう求めた。「どうすれば親を怒らせないで済むか。いつもビビりながら暮らしていた」。ショウタさんは苦笑いを浮かべた。

■「大人は嫌いだ」

 何よりも強烈なルーティンだったのが、深夜のマッサージだ。小学校の6年間はほぼ毎日、午前0時から3時ごろの間に上半身の激痛にもだえる母に「ショウタァ、お願い」と起こされた。眠い目をこすりながら1時間近く、首や背中をもみほぐすと、母はやっと寝入った。母は言った。「ショウタがいないと、ママ生きていけないよ」

 「睡眠がまじでヤバかった」とショウタさんの顔が曇った。1日3~4時間しか寝られない日もあり、授業中は強い眠気に襲われ机に突っ伏した。中国で生まれ育ち、日本語の読み書きが苦手な母に宿題を教えてもらうこともできず「勉強嫌い」はエスカレートした。

 子ども心にどうにか現状を変えたいと願っていた。

 明るく目立つことで友逹をたくさんつくろうと、小1で始めたサッカーや学童クラブの時間は、嫌なことを忘れ、走り回った。しかし家に帰るとまた、母と2人きり。

 小2の時だったか、精いっぱいの勇気を出して、つらい生活状況を学校の担任教諭に伝えたが、返ってきたのは「頑張れよ」の一言だったという。「その辺りからかな。先生は信じられない、大人は嫌いだと思うようになったのは。困ったときは頼りにしろとか言うくせに、何にも助けてくれなかったし」

 母が抱える言葉の壁も、隣近所や福祉サービスとの関わりを遠ざけた。見晴らしのいい団地の一室で、母と子は人知れず孤立を深めていた。(学芸部・新垣綾子)

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