1879年、日本政府は軍隊、警察を用いて琉球国を侵略した。琉球併合後、沖縄県庁、沖縄県警、学校等の幹部に日本人が就任し、経済活動においても「寄留商人」と呼ばれる日本人による経済的収奪が横行した。

京都地裁への提訴で入廷する原告団ら。横断幕の右はじが松島泰勝原告団長=2018年12月4日

松島泰勝(龍谷大学教授)

京都地裁への提訴で入廷する原告団ら。横断幕の右はじが松島泰勝原告団長=2018年12月4日 松島泰勝(龍谷大学教授)

 1929年、京都帝国大学助教授の金関丈夫は沖縄県や県警の日本人幹部や、日本人意識に同化された琉球人研究者の「了解」や案内を受けて、遺骨を盗掘したが、祭祀(さいし)承継者や住民の同意を得ていない。金関が盗掘した時点で祭祀が行われていた百按司(むむじゃな)墓から遺骨が盗まれたのであり、当時の刑法に照らしても違法であった。沖縄県には、県庁や警察の「了解」を得れば遺骨を墓から持ち出せるという法律や条例は存在しない。戦前、琉球人遺骨を盗掘した日本人には金関の他、三宅宗悦、鳥居龍蔵、黒岩恒、笹森儀助らがいた。

人類館総括なく

 琉球に対する植民地支配を象徴しているのが学術人類館事件である。1903年に大阪の天王寺で開催された内国勧業博覧会において学術人類館が設置された。その企画、その内容の決定に大きな影響力を与えたのが、坪井正五郎・東京帝国大学教授であった。学術人類館において日本人は展示されなかった。なぜなら日本人が「人種」間序列の頂点にいることが前提とされ、その高見から「下位の人々」を眺め、観察し、分類し、統治することができるという帝国主義の心性を人類学者や多くの日本人が共有していたからであった。戦前、日本本土に住む琉球人の婚姻、労働環境、飲食や居住等において日常的に差別が行われており、学術人類館は琉球人差別を可視化した。

 日本人類学会は、1884年に坪井ら10人によって結成された「じんるいがくのとも」という団体から始まった。同学会は、学術人類館事件に対していまだに総括、謝罪を行っていない。2019年7月、同学会は京都大学に対して提出した「要望書」において、百按司墓琉球人の遺骨を研究対象の「古人骨」「国民共有の文化財」として認識した上で、返還を拒否し、その学術調査を継続するよう強く求めた。

 金関が盗んだ琉球人遺骨を保管していた国立台湾大学は、2019年3月、琉球人63体分の頭蓋骨を沖縄県に移管した。その際、同大学が県教育委員会、今帰仁村教育委員会と結んだ「沖縄人骨移管協議書」の作成過程において祭祀承継者の参加が排除され、遺骨の返還・再風葬が拒否された。「協議書」では琉球人遺骨が「人類の重要な文化的遺産」として認識され、移管後も同大学の研究者による調査を認めることが記載されていた。一方、国立台湾大学は、同時期に、台湾原住民族ブヌンの遺骨64体を花蓮県馬遠に返還し、再埋葬を認めている。

京大による陳列

 2017年4月より、私は琉球人遺骨に関する質問書、実見申請書、返還要望書を京大に提出したが、「個別の問い合わせには答えない」として対話を拒否された。18年12月、琉球民族遺骨返還請求訴訟原告5人(団長・松島泰勝、亀谷正子、玉城毅、照屋寛徳、金城実)が琉球人遺骨の返還を求めて京都地裁に京大を訴えた。21年1月、7月には沖縄県教育庁に遺骨の返還を求めた住民監査請求が行われた。

 なぜ、京大や県教育庁は琉球人遺骨を墓に戻さないのだろうか。琉球人の人権、信仰、慣習よりも、研究者や大学の我欲を優先させている。現在の自然人類学では日本人起源研究が主流となっている。琉球人が日本人とどれだけ近いのか、日本人そのものなのかの証明を目的としている。琉球人が日本人であれば、琉球を「日本固有の領土」にしようとする地政学的欲望も垣間見える。

 学術人類館では生身の琉球人を見せ物にしたが、今は研究室内において琉球人遺骨を研究者間において見せ物にしている。遺族が存在する「日本人」の遺骨は盗掘しないが、アイヌ、琉球人、奄美人のそれらは盗掘しても刑事罰に問われず、窃盗物を保管できるのだ。それは遺族、遺骨の由来地の人をも虐げる行為である。

遺骨消失の危機

 米軍基地問題のように、琉球人は自らが生きている間、植民地支配されるだけでなく、死してニライカナイに行ってからも日本による植民地支配を受けている。遺骨への畏敬、先祖供養を日本政府、大学が拒否できる体制が続いている。琉球人遺骨盗掘・保管問題は「Ryukyuan Lives Matter(RLM=琉球人の命も重要だ)」と言う人種差別問題である。

 人骨研究の最新手法はミトコンドリアDNA研究であり、遺骨は粉砕され顕微鏡で観察され、実験が終了すれば廃棄される。一刻も早く遺骨を墓に帰還させなければ、遺骨そのものが消失してしまう。遺骨を墓に戻し、再風葬することで遺骨(骨神)と琉球人との関係を再構築する必要がある。琉球人の生者と死者との関係を切断するという暴力(=学知の植民地主義)を京大は止めるべきである。

 京大、日本人類学会は、学術人類館事件、琉球人遺骨盗掘・保管事件に対して総括し、被害者である私たちに謝罪し、遺骨を還(かえ)して、琉球人に対する人種差別を止めなければならない。そうしなければ、京大や日本人類学会は研究機関として存在する社会的意味はない。

 私たちの自己決定権を行使して、ウヤファーフジ(ご先祖)のご遺骨を元の墓に戻して、心を込めた祭祀を行いたい。

 まつしま・やすかつ 1963年石垣島生まれ。龍谷大学経済学部教授。専門は島嶼(とうしょ)経済論。主な著書に「琉球独立への経済学」「琉球 奪われた骨」「沖縄島嶼経済史」「ミクロネシア」など。