インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策を強化するため、上川陽子法相は侮辱罪の罰則に懲役刑を導入する刑法改正を法制審議会に諮問した。

 会員制交流サイト(SNS)などネットでの中傷被害は深刻化している。

 昨年5月、リアリティー番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが、ネット上で次々と「いつ死ぬの?」などと中傷を受け命を絶った。匿名による言葉の刃(やいば)が木村さんを死へと追い詰めた。

 ところが、侮辱罪に問われたのは2人だけ。処分はいずれも科料9千円だった。「刑が軽すぎる」との批判に国が対応を迫られた形だ。

 具体的事例を示して人をおとしめる名誉毀損(きそん)罪と比べて、事例を示さない悪口行為である侮辱罪の現行の法定刑は「拘留30日未満か科料1万円未満」だ。法制審では「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加する案を検討する見通しだ。厳罰化に伴い、公訴時効も現行の1年から3年に延びる。

 匿名での書き込みは、発信者を特定するため裁判になるケースが多く、弁護士費用など経済的な負担以外に、長い時間と手間がかかる。時効の問題で、告訴を諦める被害者は多く「逃げ得」となるケースが少なくない。100年以上も前に制定された刑法は、ネット被害に対応できていないのだ。

 被害者の救済へ向け、裁判所を通じ1回の開示請求で手続きが済む改正プロバイダー責任制限法が4月に成立。ネット投稿者の特定が早まる。

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 匿名による誹謗中傷が、社会の少数者や立場の弱い人に向けられる傾向があるのも深刻だ。

 沖縄の米軍基地反対運動をする市民への攻撃も続いている。差別的言動の解消に向けたヘイトスピーチ対策法から5年が過ぎても、在日コリアンへの誹謗は後を絶たない。

 法務省が2020年、ネットでの人権侵害に対し、プロバイダーなどに削除要請したのは、過去最多の578件となったが、「氷山の一角」にすぎない。

 利便性を追求するあまり、被害者救済と適切にネットを使いこなす「ネットリテラシー」の啓発が遅れてきた。 

 文部科学省のいじめに関する調査では、SNSなどを使った中傷件数は19年度、1万7924件と5年前の2倍以上に増えている。昨年11月、東京で小学6年生の女の子が、いじめを訴える遺書を残して自殺した事案では、学校が配布したタブレット端末に悪口が送信されていた。

 学校での教育を含め、社会のあらゆる対策が必要だ。

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 一方で一律の厳罰化には、危険性も伴う。権力者や大企業が告訴すれば、自身に批判的な言論を封じ込める手段にもなりかねない。表現の自由の侵害にもつながる恐れがある。法制審では、侮辱罪の適用基準について、幅広い視点から慎重な議論が望まれる。

 不幸な事案を繰り返さないためには厳罰化を進めるだけでなく、中傷は犯罪行為になり得るとの認識を広げ、社会全体の問題として、議論を深めていく必要がある。