自民党総裁選は、コロナ禍の経済政策も重要な争点になる。特に安倍晋三前首相が打ち出し、菅義偉首相も踏襲した「アベノミクス」を継承するか、修正するかが注目されている。

 アベノミクスは日銀に異次元の金融緩和を促し、円安と株価上昇を加速させたのが最大の特徴だ。

 2011年に1ドル=75円だった為替相場は15年に1ドル=125円となり、輸出産業を中心に恩恵を受けた。第2次安倍政権の発足前に1万80円だった日経平均株価は今月、3万670円と約31年ぶりの高値を付けた。

 ただ、日銀は市場へ資金を供給するため大量の国債を買い続け、国の借金は膨らんでいる。

 政府の20年度予算のうち1兆円を10万円に換算して家計に例えると、約1700万円の出費に収入は550万円。穴埋めで約1100万円を借金し、累積の借金残高は1億2010万円と火の車だ。

 大企業が恩恵を受ける一方、市民の実感は乏しい。

 安倍前首相は「400万人を超える雇用を生み出した」と誇った。しかし、実態は第2次政権発足の12年から19年までに、非正規雇用が350万人も増えている。

 12年に35・2%だった非正規雇用率は、19年に38・3%へ上昇。正規と非正規の所得差は、296万円が324万円に広がった。

 大企業に利益が蓄積されれば、滴がしたたり落ちるように低所得層にも恩恵が及ぶ「トリクルダウン」は起きなかったのだ。

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 候補者のうち、高市早苗前総務相は、2%の物価目標達成まで国の基礎的財政収支の黒字化を凍結すると主張。安倍氏以上の緩和派との見方が上がってる。

 岸田文雄前政調会長はコロナ禍で格差が拡大したとの見方から、トリクルダウンではなく成長の果実の分配を重視する。

 河野太郎行政改革担当相は、アベノミクスが個人所得の増加につながらなかったとして距離を置き、「企業から個人へ」と訴える。

 野田聖子幹事長代行はかつて、党内で「脱アベノミクス」を考える勉強会に参加したことがある。ただ、今回の総裁選では明確な賛否を示していない。

 4氏ともアベノミクスを十分に総括していない点が共通する。約10年にわたり日本経済に影響を与えた政策の功罪を検証し、見解を示した上で、次の一手を語るべきだ。

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 立憲民主党のアベノミクス検証委員会は「お金持ちを大金持ちに、強い者をさらに強くしただけ」「トリクルダウンは起きず、格差や貧困の問題の改善につながらなかった」と批判している。

 検証委によると、12年を100とした実質賃金が19年は95・6、世帯消費は90・7に下がった。貯蓄ゼロ世帯の割合は、20~60代の全てで増加した。

 アベノミクスの恩恵の乏しさを「見える化」する狙いだが、野党第1党には衆院選に向け、格差解消への道筋を示す具体策も求められる。