タイムス×クロス 藻谷浩介の着眼大局

【藻谷浩介の着眼大局】(11)トランプと中国 揺さぶる「取引」警戒を

2017年2月10日 18:17

 トランプ政権発足で、世界の一寸先は不透明だ。だが「ロシアとは融和、中国とは対決の方向」と聞き、「今まで通り、尖閣含めた日本を守ってくれそう」と、何となく期待半分の人もいるだろう。「何も変わらない」とがっかりする人も、沖縄には多いかもしれない。


 しかし、トランプの行動原理は「ディール」(取引)である。彼は強硬に出て相手に譲らせ、あるいは譲ると見せてひそかにうまいところを押さえ、少しでも自分に有利な条件での妥結(手打ち)を狙う。定価はフェアだと信じて素直に払う多くの日本人とは、思考様式が違うのだ。


 そんなトランプの就任早々の発言の数々が、落としどころを最初から示しているはずもない。「早速にブラフ(揺さぶり)をかけてきている」と考えるのが筋だろう。


 そもそも米国は、日本との貿易で毎年大幅な赤字を計上している。2015年は円換算では過去最高の10兆円弱、01~15年の累計では102兆円もの巨額だ。米国人の日本製品愛好の結果とはいえ、もう少し有利な「ディール」はないものかと、トランプは模索するだろう。


 そこで「米国車を買え」とか「トヨタはけしからん」とか口走るのは、もちろん初手の揺さぶりだ。農産物を売る? 日本の食料輸入は全部で5兆円程度なので、仮に全部が米国産になっても(豪州やカナダや中国もあるので実現は不可能だが)、赤字のごく一部が減るだけである。


 米国に輸出競争力があるのは軍事分野だけだ。だから「中国の脅威」をさらにあおりつつ「応分の負担」を求めることが、対日赤字削減に向けた最短距離だと、トランプは当然に気づいているだろう。


 米国は中国に対しても、対日の4倍以上の貿易赤字を計上中なので、中国との関係もこの際まとめて揺さぶって、そっちからも何らかの譲歩を引き出せれば、さらに好都合である。


 そんなシナリオは、米国同様に取引文化の根付いた中国の指導部には、見え見えに違いない。だがある程度の軍事的緊張は、格差拡大でたまる一方の中国国民の不満を国威発揚でガス抜きするのに有用だし、軍拡による国内軍需産業の需要創出とそれに伴う利権の拡大もありがたい。


 中国の最大の関心はもちろん台湾回復であり(中国の「太平洋への出口」もそれで自動的に確保できる)、米軍基地のある沖縄本体への侵攻など毛頭あり得ない。


 仮に行えば日米等から経済制裁を受け、輸出主導で発展してきた中国経済は死に瀕(ひん)し、台湾回復など夢のまた夢だ。しかし帰属に争いある尖閣での騒動であれば制裁は招かず、日本で反中機運が高まれば対抗してさらに軍拡が容易になる。


 そんな米中から見て日本の「愛国的」ネット世論は実に好都合であり、裏であおっていて不思議はない。だが彼らは、日本に膨大な散財をさせた末、いずれ「取引」に「手打ち」を行う予感がする。


 かつてヒットラーとスターリンの不可侵条約締結にぼうぜんとし、その後の独ソ開戦にさらに困惑した日本軍部の轍(てつ)は踏まないことだ。まずは米中の思惑通りにあおられないことが、内地にも沖縄にも重要な心構えだろう。(日本総研主席研究員、地域エコノミスト)

(2017年2月5日付沖縄タイムス総合面から転載)

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