自民党は、派閥の力学が作用し、刷新よりも安定を、突破力よりも堅実さを選んだ。

 4氏の混戦となった自民党総裁選は、岸田文雄前政調会長(64)が、決選投票で河野太郎行政改革担当相(58)を破り、初当選した。

 どっちつかずの対応が目立ち、政治ジャーナリストから「へなちょこ」と揶揄(やゆ)されることもあった岸田氏は、当選後の第一声でこう言った。

 「特技は人の話をしっかり聞くこと」。人柄が政権運営にどう生かされるか。

 選挙中、目立ったのは安倍晋三前首相への「忖度(そんたく)」だった。独自色を打ち出すことができなければ、有権者の失望感は広がるだろう。

 岸田氏は掲げる経済政策で「新自由主義的な政策を転換する」と明言した。分配の強化を打ち出したことに注目したい。格差拡大を抑え中間層を厚くするとの経済政策は、安倍前首相が打ち出したアベノミクスとは異なる。

 地元広島とかかわる次の2点についても、早い段階での対応を求めたい。

 元法相の河井克行・案里夫妻の選挙違反事件は、自民党の資金を1億5千万円もつぎ込んだ経緯が、いまだに明らかになっていない。

 核抑止力に依存する日本は、被爆者が切実な思いで求め続けている核兵器禁止条約への署名に背を向けたままである。

 締約国会議へのオブザーバー参加など、まずはできることから着実に、この問題を前に進めていくことだ。被爆者を失望させてはならない。

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 今度の自民党総裁選の最も大きな特徴は、目の前に衆院選を控えていたことだ。

 菅義偉首相は野党の追及を受けて総裁選出馬を辞退したわけではない。

 内閣支持率の大幅な低下に加え、「菅首相では選挙は戦えない」という若手を中心とした党内の動きに抗しきれず、追い込まれた末に出馬を断念したのである。

 メディアは連日、朝から晩まで候補者の動静を伝え、政策の違いを報じ続けた。

 こんなにやる必要があるのか、と疑問を感じるほど報道が過熱した。

 報道各社の世論調査で自民党の政党支持率は跳ね上がり、世間の空気は一変した。

 公選法の適用を受けない総裁選で、自民党は「メディア・ジャック」に成功し、劇的に衆院選に向けた環境を変えたのである。

 総裁選は事実上の首相選びだから報道が過熱するのはやむを得ない-で終わっていいのだろうか。検証が必要だ。

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 岸田氏は、10月4日召集の臨時国会で第100代の首相に指名される。

 できるだけ早い機会に沖縄を訪れ、「特技」を発揮して玉城デニー知事との対話を実現してもらいたい。

 選挙期間中、岸田氏は在日米軍基地に関して「全国で公平に負担することや、管理権を日本が持つことも検討が必要」だと指摘した。

 沖縄は来年、復帰50年の節目の年を迎える。新基地建設を見直し、普天間飛行場の「一日も早い危険性の除去」に道筋を付ける時だ。