ロシアとフィリピンの2人のジャーナリストに、ノーベル平和賞が授与される。

 ジャーナリストに平和賞が贈られるのは戦後初めてだ。

 ロシアの独立系新聞の編集長を務めるドミトリー・ムラトフさんと、フィリピンのニュースサイトを率いる女性ジャーナリストのマリア・レッサさん。

 「民主主義の前提である表現の自由を守る努力をした」ことを授賞理由に挙げている。

 プーチン政権下のロシアとドゥテルテ政権下のフィリピンは、ジャーナリストに対する迫害が深刻だ。

 国際非営利団体、ジャーナリスト保護委員会によると、1992年以降、フィリピンで87人、ロシアで58人の記者が殺害されたという。

 ムラトフさんの新聞は、調査報道を通しプーチン政権を批判してきた。女性記者が射殺されるなど記者6人を次々に失っている。

 レッサさんのニュースサイトは、ドゥテルテ政権の麻薬犯罪対策で多数の死者が出ている事実を報じ、権力の乱用や人権侵害を追及してきた。

 逮捕を含め、政権側から、ネット上でもさまざまな攻撃を浴びてきたという。

 ロシアやフィリピンだけではない。世界各地に強権政治が台頭し、ジャーナリストが迫害され、社会の平和的発展に不可欠な「報道の自由」という価値が脅かされている。

 平和賞の授与は、世界の現状に対するノーベル賞委員会の危機感がにじみ出たものだ。

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 米国のトランプ前大統領は陰謀論やフェイクニュースを多用し、政権に批判的なジャーナリストを「国民の敵」と言い放った。

 事実を軽んじ、メディアの信用を失わせるトランプ流の手法は、敵・味方を区別する感情むき出しの政治を生み、分断と対立がかつてないほど深まった。

 大統領選の結果に納得せず、米連邦議会を「襲撃」したのは、トランプ氏の熱烈な支持者たちである。

 日本も例外ではない。「新聞やテレビはほんとうのことを報道していない」という既存メディアに対する不信感は根深い。

 ソーシャル・メディアは、個人の情報発信力を飛躍的に高めたが、同時にフェイクニュースの拡散に利用される危険性を常にはらんでいる。

 フェイクニュースが独り歩きし、事実が軽んじられると、共通の土台の上で議論を深めることができなくなる。

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 かつて防衛大臣が「沖縄には沖縄の、国には国の民主主義がある」と言い放ち、ひんしゅくを買ったことがある。 そのような発想から生まれるのは、本土と沖縄の対立の固定化である。

 対立が固定化すれば、共通の土台は失われる。「沖縄の人々に寄り添う」と言いながら、対話のない問答無用の政治がまかり通ることになる。

 2人のジャーナリストの不屈の報道姿勢は、権力監視というメディアが果たすべき役割の重要性をあらためて気づかせた。全ての記者の奮起を促す受賞だと受け止めたい。