岸田文雄首相は、自民党総裁選に出馬した際、「政治に対する国民の信頼が崩れ、わが国の民主主義が危機にひんしている」と語った。
与党の中からこのような現状認識が吐露されたことを重視したい。政治に対する信頼を回復し、傷んだ民主主義を再生するために、選挙戦で議論すべきことは何か。
9年近くに及んだ「安倍・菅政治」の功罪を明らかにし、それにどのように対処していくかを分かりやすく示すことである。
安倍晋三元首相は長期政権の後、昨年9月、病気を理由に途中で退陣した。後継の菅義偉前首相は、党内の菅離れに抗し切れず、わずか1年で首相の座を退いた。
両首相ともコロナ対応の是非について国民の審判を仰ぐ機会はなかった。
政権選択選挙は、これから実施する政策の選択であると同時に、これまでの政権運営に対して国民の審判を仰ぐ選挙でもある。
過去の政権運営を評価するのは、選挙の重要な要素であり、功罪を判断するのは有権者である。
自民党総裁選では候補者の一挙手一投足が連日、報道され、内閣支持率が上昇した。
首相就任から解散まで10日間、14日の解散から31日の投開票まで17日間。いずれも戦後最短である。
その半面、野党各党が憲法53条に基づいて要求した臨時国会の召集は拒否され続けた。これも議会制民主主義の危機というべきではないか。
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「安倍・菅政治」の「負の遺産」として繰り返し取り上げられてきた問題がいくつかある。
「政治とカネ」を巡る問題もその一つ。昨年9月の菅政権発足後、4人の国会議員が自民党を離党し、議員を辞職した。
参院広島選挙区を巡る買収事件では、自民党本部から河井陣営に1億5千万円の資金が提供されたことが明らかになっているが、説明責任が尽くされたとは言えない。
財務省の森友文書改ざん問題で自殺に追い込まれた近畿財務局職員のケースについても、真相解明を求める遺族の切実な声は壁に突き当たったままだ。
日本学術会議会員の任命拒否問題もその理由が丁寧に説明されていないために、問題を引きずったままだ。
これらの問題は決して「済んだ問題」ではないし、「済ませていい問題」でもない。
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岸田首相は記者会見で「丁寧で寛容な政治」の実現を強調した。「国民の一体感を取り戻す」とも語った。
民主主義という制度は今、かつてない危機に直面している。
米国では、バイデン政権になっても分断と対立が解消されていない。欧米の自由民主主義とは異なる権威主義国家も増えた。
公正公平な選挙の実現、説明責任、情報開示、「抑制と均衡」のバランス維持。いずれも民主主義に欠かせない要素である。
今度の選挙は、民主主義の在り方を問う選挙でもある。