衆院選投開票日の31日に行われる国民審査で、対象となる最高裁裁判官11人中7人がいずれかの審理に関わった沖縄関連の重要訴訟が、少なくとも15件あることが22日、分かった。国民審査は最高裁の裁判官たちが「憲法の番人」にふさわしいかどうかを有権者が直接チェックできる機会。全15人のうち前回衆院選後に任命された裁判官が対象だ。期日前投票は20日から始まった。対象者はどんな裁判官か。主な訴訟を振り返る。

(社会部・新垣玲央)

 

 辺野古新基地建設に伴う「辺野古サンゴ移植訴訟」は2021年7月、県の敗訴が確定した。第3小法廷の裁判官5人のうち3人が、サンゴ採捕許可を巡り農相が県に是正指示をしたのは「違法な関与」ではないと判断した一審判決を支持した。

 担当した裁判官で審査対象は、林道晴(64)、宇賀克也(66)、長嶺安政(67)の3氏。宇賀氏のみが反対意見を述べた。反対意見を述べたもう1人の宮崎裕子氏は定年退官している。

 20年3月には、辺野古埋め立てを巡る「国の関与」取り消し訴訟で、県の承認撤回に沖縄防衛局が私人の立場で国交相に審査請求した「国の私人成り済まし論」を認めた一審判決を、第1小法廷が支持。裁判官5人全員一致の結論だった。担当者のうち今回の審査対象は深山卓也氏(67)。

 那覇市管理の儒教施設、久米至聖廟(しせいびょう)(孔子廟)を巡る住民訴訟は21年2月、大法廷で裁判官15人中14人が市による土地の無償提供は政教分離に反し憲法違反と判断。二審判決が一部破棄され、住民側の完全勝訴となった。

 今回の審査対象は深山、三浦守(65)、草野耕一(66)、宇賀、林、岡村和美(63)の6氏。反対意見を示した1人は退官した。

 石垣島への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票の実施義務付け訴訟は21年8月、第2小法廷が上告を棄却した。裁判官4人全員一致の結論だ。審査対象は三浦、草野、岡村の各氏となる。

 最高裁は「高度に政治的な問題」について司法判断を避けることが多いとされる。20年7月の第2次普天間、21年3月の第3次嘉手納の両爆音訴訟は、それぞれ第2、第3小法廷で飛行差し止めを求める住民の訴えが退けられた。

 いずれも裁判官全員一致の結論。担当者のうち審査対象は、普天間爆音が三浦、草野、岡村の3氏、嘉手納爆音は宇賀、林の両氏となっている。

 県内で国民審査の無効投票率は過去4回とも全国で最も高く、全国平均に比べて約2倍前後で推移している。

 審査用紙に「×」印以外(◯△など)を書くと、無効になることなども注意が必要だ。

メモ用紙を公開

 沖縄タイムスはウェブサイト上で、国民審査用のメモ用紙を公開します。対象となる最高裁裁判官11人の氏名が投票用紙と同じ順番で並んでいます。どの裁判官に×を付けるか付けないか、事前にメモして投票の参考にできます。総務省と県選管によると、周囲にわざと見せびらかしたりしなければ、自分用のメモを投票所に持ち込むことは法的に問題ありません。

▶国民審査メモ用紙ダウンロード

【クリックしてダウンロード】国民審査メモ用紙

・これは投票用紙ではなくメモ用紙です。間違えて投票箱に入れないでください。
・裁判官の氏名は投票用紙と同じ順番で並んでいます。
・どの裁判官に✕を付けるか付けないか、事前にメモして投票の参考にすることができます。

最高裁のサイト、審査知らせず 対象者も不明

県選管がウェブサイトで公開している審査公報(一部)

 国民審査の関係機関はどこも、PRに積極的ではない。審査を受ける立場の最高裁のウェブサイトは、審査があること自体を知らせていない。裁判官15人全員の紹介ページはあるが、今回誰が対象になるか分からない「通常営業」状態だ。最高裁広報課は「審査のための必要かつ十分な情報提供は重要だと認識している」という。現状を十分と考えるのか尋ねたが、明確な回答はなかった。(編集委員・阿部岳

 対象となる裁判官11人は、関わった判決や心構えを書いた原稿を総務省に提出する。まとまった原稿は都道府県選挙管理委員会に送られ、印刷されて審査公報として有権者に配られる。ただ紙が届くのは「投票日2日前まで」で、その前に期日前投票を済ませる人も多い。

 都道府県選管はウェブサイトにも審査公報を掲載するが、時期はまちまちだ。原稿を取りまとめる総務省が掲載すれば早いのではないか。選挙課に聞くと、「今のところ予定はない」との回答だった。

 審査公報自体も、難しい言葉が多い。論争になった判決を裁判官が自ら選んで紹介するとも限らない。

 何も書かない投票用紙を入れると、全員信任になる仕組みも感覚的に分かりにくい。選挙課は「○と×を付ける制度にすべきだという声は承知しているが、国民審査は選挙ではなくリコール(解職)の制度。そのため、辞めさせたい裁判官に×を付ける形になっている」と説明するにとどめた。

最高裁に緊張感を持たせて

■江川紹子さん・ジャーナリスト

 

 国民審査で投票用紙の1番目に名前が載る最高裁裁判官は×が多いらしい。順番はくじで決まる。退任した人に聞くと裁判官の間では「1番は嫌だ」という話が出るくらいで、本質的な脅威とは感じていないようだ。実際、過去に罷免された人は一人もいない。

 今回はいろいろな意味でチャンスだ。まず裁判官15人中11人と大半が対象になる。判断が分かれた例は沖縄関係で辺野古サンゴ移植訴訟があり、全国的にも夫婦別姓訴訟がある。最高裁にどういう裁判官がいてほしいのか、有権者の意思を示すことができる。

 ×以外の○を付けたり何かを書いたりすると無効になることに気を付けてほしい。沖縄で無効票が多いのは○を付けたりする人が多いからではないか。×の多さからも分かる通り制度への意識が高く、それが災いしているのだと思う。

 選ぶ基準は一つだけでもいいので、賛成できない裁判官の名前に×を付けること。どうしても分からない場合は棄権するか、全員×にすることをお勧めする。何も書かず投票箱に入れると、全員に対する白紙委任になってしまう。

 司法は国民の意思で左右できる。そのことを示し、最高裁に緊張感を持たせる機会として国民審査を活用したい。