車いすを利用するコラムニストの伊是名夏子さん(39)=沖縄県那覇市出身、神奈川県在住=が、いわれなき誹謗(ひぼう)中傷にさらされている。4月に電車を利用した際に「乗車拒否」にあったことをブログに書いたことが発端。インターネット上で炎上し、デマが広がり続けている。危機感を募らせた伊是名さんは今月、被害を防止する法制度の実現などを目指し、仲間と共に行動を起こした。(学芸部・嘉数よしの)

静岡県熱海市の来宮神社を訪れた伊是名夏子さん。この旅行の際に「乗車拒否」にあった=4月(本人提供)

SNSでの被害解消に向けて、仲間と活動を始めた伊是名夏子さん(手前)=11日、東京都内(伊是名さん提供)

静岡県熱海市の来宮神社を訪れた伊是名夏子さん。この旅行の際に「乗車拒否」にあった=4月(本人提供) SNSでの被害解消に向けて、仲間と活動を始めた伊是名夏子さん(手前)=11日、東京都内(伊是名さん提供)

 骨形成不全症で電動車いすを使う伊是名さんは今春、子ども2人と介助者ら計5人で、静岡県熱海市を訪れた。エレベーターのないJR東日本の無人駅で下車しようとしたところ、駅員から一時「階段しかないので案内できない」と言われた。長く交渉し、最終的には近隣駅から応援の駅員が駆け付けて「今回は特別」として階段移動を手伝ってくれた。車いす利用者を想定していないと感じた伊是名さんは、ブログで「乗車拒否されました」と問題提起。「誰もが安心して利用できる公共交通機関になってほしくて発信した」と狙いを話す。

 この訴えには、2016年に施行された障害者差別解消法の後ろ盾もある。同法は、障がい者の生活上の障壁を取り除く「合理的配慮」の提供を、国や地方自治体に義務付けており、民間事業者にも義務化される改正法が5月に成立している。

 車いすユーザーは、エレベーターやスロープのない駅では、駅員らに上げ下ろしの介助をしてもらい、乗降できる。伊是名さんも差別解消法に基づく合理的配慮として、階段での介助を求めた。「配慮が行き届いていない状況がある以上、声を上げないといけない。私が電車やバスに乗れたり、ヘルパー制度が使えたりするのは、先輩たちの運動のおかげ。障がい者にもやりたいことをする権利があり、人権が守られるべきだ」と訴える。

 だが、その反響は大きく、伊是名さんを困惑させた。「わがまま」「駅員がかわいそう」などの反発が相次ぎ、SNSには「モンスタークレーマー」「他人に頼らなければ生きていけない自分を恥じろ」など読むに堪えない投稿が相次いだ。YouTube(ユーチューブ)でも、伊是名さんを否定する動画が散見され、再生回数が数十万に上るものもある。

 被害はネット上にとどまらず、居住地の役所や警察には「本当は歩けるのにうそをついてヘルパーを使っている」といったデマが寄せられた。夫の勤務先や子どもが通う小学校にも苦情が入り、自宅には不審な手紙も届いた。

 周囲の人に「2~3カ月黙っていたら沈静化するから」と言われ、沈黙を守ったが、炎上はエスカレートする一方。伊是名さんは同じようにSNSでの誹謗中傷に悩む女性たちと共に、行動を起こすことを決めた。

 職場のヒール靴強制に反対する運動「#KuToo」を始めた石川優実さんと市民活動家の菱山南帆子さん、編集者の山田亜紀子さんと4人で「Online Safety For Sisters(オンライン・セーフティー・フォー・シスターズ)」というグループを創設した。SNSの誹謗中傷によって自殺する人がなくなるよう取り組んだり、SNS事業者に差別解消を義務付ける法整備を呼び掛けたりする。

 伊是名さんは「本来の目的だった障がい者が直面する課題の議論ではなく、ネットハラスメントに立ち向かわざるを得なくなってしまった」と残念がる。だが、「泣き寝入りはできない。問題を可視化し、現状を変えていきたい」と決意する。