木村草太の憲法の新手

【木村草太の憲法の新手】(163)アルコール問題対策 依存症の予防へ啓発重要 超党派で力を合わせて

2021年11月7日 06:44有料

 10月31日の衆議院議員総選挙で、与党は絶対安定多数を超える議席を獲得し、岸田政権は信任を得たといえる。もっとも、接戦の選挙区も多く、来年の参院選に向けて、政党間の激しい競争が続くだろう。競争により政策を切磋琢磨(せっさたくま)するのは大変望ましいことだが、各党の対立を超えて、協力すべき課題も多くある。その一つが、アルコール問題対策だ。

 2010年、WHOがアルコール消費量の提言政策を呼び掛けた。これに応じて、日本でもアルコール問題対策の強化が進められた。アルコール関連の学会や自助組織などの市民団体はネットワークをつくり、国会でも中谷元衆議院議員を会長とする超党派の議連が作られた。2013年末には、アルコール健康障害対策基本法が衆参両院全党一致・全会一致で可決・成立し、翌年から施行された。

 基本法は、政府に対し「アルコール健康障害対策推進基本計画」の策定と、その5年ごとの見直しを義務付ける。第1期の計画は2016年に作られ、今年、2021年は第2期の計画が立てられている。今期の計画では、アルコール依存症などに対する「知識の普及」と「家族」を「より円滑に適切な支援に結び付くように」することを重点課題としている。

 「依存症なんて、誰でも知っている」と思う人もいるかもしれない。しかし、最新の調査によれば、国内には約60万人の依存症者、1千万人近い危険な多量飲酒者がいるのに、医療にかかっているのはわずか4万人程度だという。

 依存症は、ただの「酒好き」に見えるかもしれない。しかし、依存症の場合、自らの意思では断酒できず、精神的・身体的にアルコールに依存する状態にある。これはれっきとした心身の病だ。残念ながら、日本社会は飲酒や酩酊(めいてい)に寛容すぎるところがあり、社会の間で「病院に行かなければいけない病だ」という認識が弱い。

 厄介なことに、依存症は「否認の病」と言われ、当人は「自分は病気ではない」「危険な量は飲んでいない」「いつでも止められる」などとうそぶくことがよくある。だからこそ、本人が病を自覚できるようにし、家族や周囲の人が専門の医療につなげるきっかけをつくることが重要課題となる。

 さて、基本法は都道府県にも基本計画の策定を求めており、沖縄県も2018年に計画を策定した。

 沖縄県は飲酒者の割合が男女ともに全国平均に比して高く、1回の酒量も多い。県内の配偶者暴力(DV)による検挙数の6割近くに飲酒が関係している。飲酒と密接な関係があるとされる児童虐待も増加傾向にある。

 そこで、県の基本計画でも依存症に関する正しい知識の普及に取り組むとしている。特に、飲酒をしていれば誰でも依存症になり得ること、また適切な治療によって十分回復できることを普及啓発すべきだとしている。

 国会にもできることはまだまだあるはずだ。衆議院議員の方々も、全党一致・全会一致で基本法を成立させたことを思い出し、アルコール問題対策のために力を合わせてほしい。(東京都立大教授、憲法学者)

人気連載「憲法の新手」が本になりました!

沖縄タイムスでの好評連載をまとめた第2弾。2017年1月から19年3月までを収録。改憲論議、児童虐待、文書管理、デマとの対峙、県民投票など多岐にわたる事象を、憲法学の観点から論じる。

■木村草太 著
■四六判/211ページ

ご注文はこちら

連載・コラム
記事を検索
注目コンテンツ
「琉球歴史文化の日」制定記念特集
「琉球歴史文化の日」制定記念特集
11月1日、この日を「琉球歴史文化の日」と定め、沖縄の歴史と文化への理解を深めると同時に、新たな歴史と文化を創造していくためのきっかけとしていきます。
復帰のエピソードお寄せください
復帰のエピソードお寄せください
日本復帰にまつわる体験や、半世紀を振り返っての思いなどをお寄せください。
SDGs企画「未来へ#いのちを歌おう」
SDGs企画「未来へ#いのちを歌おう」
Kiroro玉城千春さんが沖縄県内の小・中学校を訪ねて、夢、命の尊さを届けます。
不器用トーク・アーカイブ
不器用トーク・アーカイブ
不器用トークのアーカイブページです。毎月1回、まさに今、現場で取材している記者たちが、それぞれのテーマについて熱く語ります。
命ぐすい 耳ぐすい
命ぐすい 耳ぐすい
沖縄県医師会の各分野の医師による医療・健康に関するコラム
胃心地いいね
胃心地いいね
沖縄タイムスの各市町村担当の記者が、地域で話題のお店や人気グルメを食べ歩きます。
アクロス沖縄
アクロス沖縄
東京発 各分野で活躍する情熱県人らを紹介
ワールド通信員ネット
ワールド通信員ネット
世界各国の沖縄県系人の話題を中心に、海外通信員が各地のニュースをお届けします
マンガ家大城さとしが行く!沖縄のじょ~と~企業探訪
マンガ家大城さとしが行く!沖縄のじょ~と~企業探訪
おばあタイムスでおなじみのマンガ家・大城さとしさんが長編マンガで沖縄の企業を紹介するシリーズ企画です。
沖縄球児の思い出づくりサポート 高校野球写真サイト
沖縄球児の思い出づくりサポート 高校野球写真サイト
沖縄の高校球児たちの思い出づくりをお手伝いするために、県内大会の写真販売サイトを開設しました。※閲覧・購読は関係者のみ。パスワードが必要です。
よみがえれ首里城 火災から2年特設サイト
よみがえれ首里城 火災から2年特設サイト
首里城が火災で焼失して2年。復元事業の進捗や現状を特集で紹介する。
沖縄タイムスのイチオシ
問題解決型メディア・プラットフォーム「Link-U by OKINAWATIMES」
問題解決型メディア・プラットフォーム「Link-U by OKINAWATIMES」
クラウドファンディングに加え、セミナー・コミュニティー事業を通じ、現状を変えようと挑むすべての「リーダー」たちを後押しします。
那覇市久茂地にコワーキングオフィスhowlive誕生!
那覇市久茂地にコワーキングオフィスhowlive誕生!
howliveは沖縄タイムスが運営するシェアオフィス、コワーキングプレイス。抜群の立地と美しいデザイン、豊富な設備が特徴です。
第73回沖展 作品募集要項/出品目録
第73回沖展 作品募集要項/出品目録
沖展2年ぶりに作品募集します。沖縄県内最大の美術工芸公募展として歴史と伝統のある沖展に奮ってご応募ください。意欲ある作品を期待します。
沖縄タイムス社NIB講座実施のお申込みはこちら
沖縄タイムス社NIB講座実施のお申込みはこちら
新聞から得るジンブンはビジネスの最強ツール!新入社員研修やOFF-JTにNIB講座「新聞の読み方講座」はいかがですか?
オンラインでまるごと久米島2021
オンラインでまるごと久米島2021
ふるさと元気応援企画第27弾 今年もオンラインで久米島の特産品を販売します! 12月1日から19日まで開催です。
「お悔やみ速報沖縄 しまダビ」登場
「お悔やみ速報沖縄 しまダビ」登場
お世話になった方との最後のお別れはお別れを大事にしたい・・・そんなあなたのアプリです。
「ライトプラン」スタート
「ライトプラン」スタート
得する人生、始めよう!有料記事100本が読み放題。記事閲覧“爆速”体感を。
沖縄タイムス会社案内デジタル版
沖縄タイムス会社案内デジタル版
最新の会社情報や仕事内容を紹介。社長や若手社員から就活生へのメッセージもあります。
新聞配達員募集
新聞配達員募集
お住いの地域周辺で、空いている時間を活用して働いてみませんか?
「この本を読みましょう」おすすめ図書
「この本を読みましょう」おすすめ図書
大手6出版社のおすすめ図書を紹介。県内書店でぜひ手に取ってみてください。