木村草太の憲法の新手

【木村草太の憲法の新手】(164)校則問題の論点 学校内も自由保障が原則 多数決の過信は危険

2021年11月21日 12:00有料

[木村草太の憲法の新手](164)

 近年、注目を集める校則問題の論点を整理したい。

 まず、不合理性を指摘していけば、校則問題は自然と改善するとの見解もある。しかし、それは楽観的すぎる。

 ルールは、意味がなければないほど、それを守った人の間に結束が生まれる。例えば、交通ルールは安全を守るために必要なので、これを順守しても特段の結束は生まれない。これに対し、「全員で同じ髪形をする」との団体ルールは、団体への帰属意識以外に順守動機がない。だからこそ、順守者間の強烈な連帯感、違反者への強い反感を生む。校則については、「意味がないからこそ、順守による連帯感を高めたい」と考える学校関係者がいることを前提に、解決策を検討すべきだ。

 次に重要なのが、校則に関する二つのスタンスの違いだ。第一は、学校内では、児童・生徒は学校の包括的な生活指導権限に服すべきで、自由が認められるのは、学校側が恩恵として認めた場合に限られるというもの。第二は、学校内でも、児童・生徒にはさまざまな自由が保障されるのが原則で、学校側が児童・生徒に介入するには、合理的な根拠が必要だというもの。

 第一のスタンスによるなら、それが学校側の要求だというだけで、圧迫・強制を正当化する。このスタンスに基づいて校則の「見直し」をすると、仮に、何らかの譲歩を勝ち得ても、それは学校が与える「恩恵」と位置付けられるだけで、むしろ学校側の強権の再確認になってしまう。

 校則見直しの成功例として、「タイツの色はベージュのみ」とされていたのを、生徒主体の話し合いを通じて、黒も認められるようにしたケースが紹介されているのを聞いたことがある。しかし、学校は治外法権ではない。そんなルールを設定し、守らせようとしていたこと自体が異常ではないか。

 「個人の尊重」という憲法原則からすれば、校則問題は、「第二のスタンスが正しい」という認識を学校側、児童・生徒側で共有することから始めなくてはならない。「個人の領域」における児童・生徒の自由は、校長判断や他の児童・生徒の多数決で制限してよいものではない。

 しばしば学校現場では、「○○の髪形を許すと非行が増える」といった言説が見られる。しかし、その根拠となる統計があるようには見えない。非行防止策なら、髪形の強制以外に、いくらでも方法はあるだろう。自由を制限するには、公共的理由と科学的根拠が必要だ。

 また、児童・生徒による多数決を過信するのも危険だ。例えば、白い下着の指定などは、校長判断だろうと、生徒の多数決であろうと、セクハラであることに変わりはない。多数決は、選んでも良い複数の選択肢があるときの決断方法であって、選んではならない選択肢の正当化手段ではない。多数決を理由に不合理な校則を強行するのは誤っている。

 「個人の尊重」を実践しようとするなら、校則は、「授業中に私用でスマホを使わない」とか「暴力禁止」といった合理的で自由を尊重したものに限定されてゆくだろう。互いの個性を尊重しあう社会を実現したいなら、子どもが成長する場たる学校現場の改善が急務だ。(東京都立大教授、憲法学者)

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沖縄タイムスでの好評連載をまとめた第2弾。2017年1月から19年3月までを収録。改憲論議、児童虐待、文書管理、デマとの対峙、県民投票など多岐にわたる事象を、憲法学の観点から論じる。

■木村草太 著
■四六判/211ページ

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